ジーパン

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ジーパン

 水底で気ままに寝そべる私の頭上でポチャン、と音がしました。先日の木こりのように、また誰かが私の泉にモノを落としたようです。  ゆっくりユラユラと沈んでくるモノを私は両手でしっかりと受け止めます。  それは酷く色落ちしたジーパンでした。一目見ただけで持ち主の深い愛着が伝わるほど、使い古されているように感じます。  私は急いで上に向かって泳ぎました。水面からヒョコッと顔を出すと、私を見下ろすように若く精悍な顔つきの青年が立っています。  あらやだイケメン。今日ちゃんとメイクしてたかしら? なんて、年甲斐もなくドキドキしつつ語りかけます。 「あなたが落としたのはこの金のジーパンですか? それともこの銀のジーパンですか?」  金や銀のジーパンがはたしてちゃんとジーパンとして機能するのか、なんてのは私の知ったことではありません。金と銀のモノを用意する決まりなので、私はそれに従って仕事をするだけです。  まぁ、それは置いておいて。  願わくば正直者であって欲しいと願う私に対し彼が言った言葉は、全く予想外のものでした。 「いやあの、金とか銀じゃなくて、元の色に近い形で染め直して頂きたいんですけど」  はい? 染め直す?  彼は何を言っているのでしょう。私は改めて問いかけます。 「あなたが落としたのは金のジーパンですか? それとも銀の……」 「いやだから、金とか銀は別に良いんで、元の色に近い感じでお願いします」 「え」 「えって、え? ここに投げ入れたら染め直して頂けるんですよね?」 「え、そうなんですか?」 「そう伺いましたけど」 「え、誰から?」 「誰からっていうか、噂ですけど。木こりの投げ入れた斧を金とか銀に染め直してくれたんですよね? 違うんですか?」 「え、いやあの……染め直したとかじゃなくて、本物の金と銀でできた斧をプレゼントして……」 「……あっ、そういう感じですか? あー……そうなんですね。へぇ」  あれ、何この気まずい感じ。  変な空気を自覚し、私は慌てて話を進めます。 「あっ、あの! 正直者のあなたには元のジーパンに加えて、この金のジーパンと銀のジーパンを……」 「あ、いえ、元のやつだけでいいです。染め直してもらいたかっただけなんで。ダメでしたけど」 「え、でも、一応決まりなので」 「いやほんと大丈夫なんで。貰っても逆にアレなんで。すいませんけど、はい」  青年は端正な顔を小さく歪めた後、トボトボと道を引き返して行きました。私の胸は罪悪感でズキズキと痛みます。  え、これって私が悪いんですか?
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