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 後日。私は水底のネット環境を使い、ジーンズ用の染料を注文していました。  ちょうどポチりとしたタイミングで、ポチャンと軽い水音がしました。私は前回の失敗を取り返そうと気合いを入れてモノを取りに向かいます。  今回投げ込まれたのは、話題沸騰中の戦隊シリーズ「お受験戦隊ベンキョウジャー」の一人、「ベン・ブラウン」のフィギュアでした。となると、落としたのは子供でしょうか?  私はフィギュアを落として泣きそうな子供の顔を想像し、急いで水面へと泳ぎます。 「あなたが落としたのはこの金のベン・ブラウンですか? それともこの銀のベン・ブラウンですか?」  予想通り、そこに居たのは年端もいかぬ少年でした。彼はつぶらな瞳で私を見上げながら、その小さな口を開きます。 「ベン・レッドは?」 「えっ?」 「お姉さん、ベン・レッドは? ベン・ブルーは?」 「えっ? えっ?」 「僕、ベン・ブラウンじゃないやつが欲しいんだけど」  ……これは一体どういう流れなのでしょう。私は恐る恐る尋ねます。 「えっと、ボクが落としたのはベン・ブラウンだったよね? だからほら、金のベン・ブラウンと銀のベン・ブラウンを持ってきたの。ボクが落としたのはどっちのベン・ブラウンかな?」 「他のベンキョウジャーは貰えないの? 僕、ここに来たら他の色のベンキョウジャーが貰えると思ったんだけど」 「……あの、なんでそう思ったのかな?」 「だってお姉さん、木こりさんにいろんな色の斧をあげたんでしょ?」 「あっ……」  確かに間違いではありません。ありませんけど……。私は勘違いというものの恐ろしさに目眩を覚えました。  当然、私は金と銀のベン・ブラウンは与えられても、他の種類のベンキョウジャーフィギュアを少年に与える術は持ちません。  縋るような目つきの少年に、私は胸を痛めつつ答えます。 「あのねボク。残念だけどお姉さん、他のベンキョウジャーは持ってないの。だからこの金と銀のベン・ブラウンで我慢して?」 「えー……僕ベン・ブラウンはあまり好きじゃないんだけど。なんか名前が汚いし」 「いや、でもねボク……」 「大体金と銀のベン・ブラウンって何? それはもうベン・ブラウンじゃないよね? お姉さん、大人なのにブラウンの意味も分からないの?」 「わ、分かるわよ! だけど、これはそういう決まりだから……」 「お姉さんは、決まりだったら間違ってることでも従うの?」 「え? ……いや、その……」 「あっ、困らせてごめんね。勘違いして投げ入れたのは僕なのに。もういいから、普通のベン・ブラウンだけちょうだい」 「あ、はい」 「ありがとう! じゃあね! 決まりに従順なお姉さん!」  走り去る少年の背を見ながら、なぜかとても空虚な気持ちになりました。  私はどこで何を間違えてしまったのでしょうか。
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