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火事
東京の、とある下町に、大きなアーケードを持つ
昔ながらの商店街が有った。
その商店街の裏筋には、スナックが三軒、焼き鳥屋、おでん屋、ラーメン屋等
小さな、夜の憩いの場を提供する店が、並んでいた。
そのスナックの中の一軒、並んでいる店の一番端に有る『北沢』で
梨乃は、働いていた。
経営者で、ママでもある、北沢美幸は55歳だったが
小柄で、美人だったので、年より、うんと若く見える。
もう一人いるホステスは、渚と言い、梨乃と同じ22歳だったが
のんびりした性格の所為か、しっかり者の梨乃の方が、歳上に見られる。
二人は、標準語を使っているが、イントネーションが違うので
どっちも地方出身者だと言う事が、そして、梨乃は南の方
渚は、北の方の出身だろうと言う事も、バレバレだったが
客は、それも楽しんでいた。
来る客は、殆ど商店街の店主たちで、全員が顔見知りなので
和気あいあいとした、和やかな雰囲気の店だった。
店主達は、店の業績の不振を嘆いたり、妻の尻に敷かれている事を嘆いたりと
一日のストレスを発散するために、飲みながら、愚痴をこぼす。
「梨乃ちゃ~ん、聞いてくれよ~」雑貨屋の店主が、梨乃に言う。
「はいはい、今日は、お客さん少なかったの?」
梨乃は、ビールを注いでやりながら聞く。
「いや、結構来てくれたんだけどさ~」「良かったね~」
「うん、それは良かったんだけどさ~連れ立って来た、高校生の一人が
俺の頭を見て、ぷっと吹き出したんだ」
そう言う雑貨屋の山本の頭は、天辺が、かなり薄くなっている。
「そしたら、他の子も笑い出しちゃって、ほら、あの年頃って、笑いだしたら
止まらないだろ?その上、お笑い芸人の00に似ているって言いだしてさ~
更に、大笑いになっちゃったんだよ」
確かに、今、若者に人気の、お笑い芸人の00の頭も、同じ様な薄毛だった。
「まぁ、それで?」「仕方ないから、00のギャグをやったら
これが、うけちゃってね~」「良かったじゃないの」
「うん、最後は、皆でいろいろ買ってくれたんだけど、やっぱりこの頭で
俺は、皆に笑われるんだよね~、悲しいな~」
「悲しまなくても良いわよ、あのハリウッドの有名な俳優さん、✕✕も
同じ様な頭だけど、カッコイイって、モテモテじゃない。
誰が何と言おうと、私は、山ちゃんはカッコイイと思ってるわ」
「有難う~そう言ってくれるのは、梨乃ちゃんだけだよ~」
「じゃ、一緒に歌おっか」「うん、歌おう、歌おう」と、ジュエットしてやる
「あ~良いな~梨乃ちゃん、俺ともジュエットしてよ」「良いわよ」
「やった~ママ、銀恋入れてよ」「はいはい」と、その夜も楽しく更けて行く
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