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一郎は、近くに学生時代の友達がいるから、今夜は、そこで泊めてもらうと
皆とは、病院の前で別れた。
美幸は、門倉と話が有るからと、一緒に、門倉まで歩く。
「ママ、これからどうする?」門倉が聞くと
「これを機に、故郷へ帰るよ、介護施設に入っている両親も
80歳を超えたし、少しでも、傍にいてやろうかと思ってね」と、言う。
「そうか、それが良いかもな」門倉は、そう言ったが
梨乃の方は、思いがけない美幸の言葉に、驚いていた。
美幸は、また店を建てる、私は、それまでアルバイトでもしながら
待って居よう、そう思っていたからだ。
それなら、本格的に、就職先を探さないといけない、だが
自分が就職する事が、いかに難しいか、梨乃には身に染みていた。
美幸も、渚も居なくなるんだ、頼れる人は、誰もいない。
だからと言って、故郷には、帰りたく無かった、どうしよう、どうしよう。
梨乃が、焦っていると「ママ、梨乃ちゃんだけど、うちでウェイトレスとして
働いてもらおうと思っているんだ、どうかな」と、門倉が言う。
「そりゃぁ、願ってもない事だよ、門倉さんなら、誰よりも安心して
梨乃を預けられる、良かったな~梨乃」美幸は、大喜びでそう言った。
門倉のカフェで、ウェイトレス?思っても居なかった。
「もし、他に就職したい所が有れば、いつでも、辞めて良いからね
それまでの、腰掛でも良いから、やってみない?」門倉は、優しく言った。
「はい、お願いします」今は、それしか、方法は無い、梨乃は、そう思った。
門倉の店に着き、門倉は、珈琲を淹れると、梨乃の前に置き
「梨乃ちゃんは、雑誌でも読んでて」と、言って、美幸と珈琲を飲みながら
何やら話を始め、書類のやり取りを済ませると、美幸は
「じゃ、私は、00ホテルに居るからね」と言って、店を出て行った。
珈琲カップを洗い終わった門倉は「じゃ、うちに行こうか」「はい」
門倉の家は、商店街の裏に通っている、小さな路地を渡り
大通りの歩道から、緩い階段を上った所に有った。
「大きいですね~」思わず、そう声が出たほど、純和風の立派な屋敷だった。
「大きいだけで、古くてね、でも、玄さんが手入れをしてくれるから
あ、玄さんって言うのは、朝、来ていた、お爺さんの事だよ」
「あのお爺さん、玄さんって言うんですか?」
「うん、玄さんのお爺さんが、この家を建てたんだ、それからだから
玄さんとの付き合いは、長くてね」そう言いながら、門倉が
美しい格子戸を開けると、広い玄関で、その先は、磨きこまれた
長い廊下が、続いていた。
「さぁ、どうぞ」と、梨乃を中へ、招き入れる。
「お邪魔します」そう言って、靴を脱ぎ、門倉の後に続く。
「梨乃ちゃんは、この部屋を使ってね」と、案内された、8畳の部屋には
ぽつんと、布団袋が置かれていた。
その傍へ、買って来た洋服や、化粧品を置き、また、門倉の後について行く
「ここは、台所だけど、食べる事は、店で済ませるから、ここじゃ
お湯を沸かす位なんだ」そう言う通り、台所用品は、使っている形跡が無い。
次に「お風呂はここね」と、檜の香りがする、まだ新しい風呂を見せる。
「良い香りですね」「さすがに古くなったので、去年新しくしたんだ。
一人だからね~もう、ユニットバスで良いと言ったんだが
玄さんが、この家には合わないって、勝手に、檜にしちゃったんだ」
どうやら玄さんも、玄さんのお爺さんと同じ、大工さんの様だった。
他にも、襖を外すと、大宴会場になりそうな、広い客間が有ったり
黄金色が眩しい、豪華な仏壇が有る、仏間など、沢山部屋が有ったが
どの部屋も,片付きすぎていて、人が住んでいる感じが、しなかった。
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