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時間が、閉店間際になると、ママのアパートの隣の部屋に住んでいる
鉄工所に努めていると言う、ガタイの良い親子がやって来て
ビールを二杯ずつ飲んだ所で、閉店となり、客は
「また明後日な~」「おやすみ~」等と言って、帰って行く。
「じゃ、帰るとするか」と、ママを送って行く、その親子も、腰を上げる。
「毎日、悪いわね」「な~に、気にするな」
この親子が、毎晩、ママを送るようになったのには、訳が有った。
美幸の元夫である、島崎が、ストーカーとなって
美幸の後を付いて来て、再婚を迫るからだった。
異常な、嫉妬心を持つ島崎は、まだ、雇われママをしていた美幸と
客との仲を疑い、その客の家に放火した挙句、火事に驚き
飛び出して来た所を、ナイフで刺して捕まり、放火と殺人未遂で
長い間、刑務所に入っていた、美幸は、直ぐに離婚を申し立て、その時は
島崎も納得して、判子を押したのに、刑期が開けると
美幸のところに押しかけ、再婚を迫るようになった。
あまりのしつこさに、警察沙汰となり
美幸の傍には、近付けない様になったのに、まだ、諦めていないのだ。
それを知った、隣りの親子が、毎晩一緒に、帰る様になり
「良かったな~ママ」と、店の常連客も、安心していた。
「じゃ、戸締りしっかりしてね」「は~い、ママ、おやすみなさい」
梨乃と渚に見送られて、ママは帰って行き、片付けを済ませた渚は
「梨乃、私、先に上がって、お風呂沸かすね」と、二階へ上がって行く。
店の二階には、風呂やトイレも有り、洗面所には、洗濯機も有る
梨乃と渚の住む部屋になっていた。
梨乃は、一人だけ残って、カウンターに突っ伏している、喫茶店のマスター
門倉を、起こし始めた「マスター、もう閉店しましたよ、起きて下さい」
すると、門倉は顔を上げ「もう、皆、帰ったんだね」と、聞く。
「ええ、ママも帰りましたよ」「渚ちゃんは?」
「もう、二階に上がりました」「そうか、なぁ梨乃ちゃん
明日、映画見に行かない?」酔いつぶれていたのかと思ったのに
門倉は、普通の顔で言う、翌日は、商店街もスナック北沢も、定休日だった。
「映画ですか?」「うん、梨乃ちゃんの好きな漫画が、原作なんだって」
そう言って見せた、チケットには、その漫画のイラストが描かれていた。
梨乃も、その事は知っていた「見たいけど、、、映画だけですよね」
それ以上の付き合いは出来ないと、暗に言う。
「勿論、映画を見るだけだよ、心配しないで」そう言われたが
男性に、警戒心の強い梨乃は、ちょっと躊躇した。
仕事柄、遊びに行こうと誘われる事は多い。
今までも、何度も誘われたが
「そういうお付き合いは、しないんです」と、はっきり断っていた。
その点、渚の方は気軽に「良いよ、私もそこへ行きたかったんだ」と
ドライブや、食事に付いて行く。
そんな渚に「遊ぶのは、勝手だけど、奥さんの居る人と、遊んじゃ駄目だよ」
ママの美幸は、そう注意する「ドライブだけでも駄目なの?」
そう言う渚に「何も無くっても、二人っきりになるのは駄目だよ。
奧さんは、信用しないからね、訴えられて、慰謝料を請求されるよ」
「それって、ヤバイよね~そんなお金ないもん」
「だったら、誘われても、断るんだね」「うん、分かった」
素直な渚は、美幸の注意を守って、妻帯者に誘われても
「あんた、奥さん居るから駄目」と、断っている。
「俺、独り者だよ」と、嘘を言っても、どこで見分けるのか、渚にはバレて「そんな嘘を言う人とは、絶対に行かない」と、あっかんベーをされる。
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