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ふらふらと歩いて行くと、庭先で昔ながらの餅つきをしている所が有った。
その賑やかな声に「もう、お正月なんだ」と、ぼんやり思う。
その足は、何かを求める様に、末子の家に向かっていた。
子供の頃「助けて~」睦子の手を逃れて、必死で駆け込んだ家。
もう、その末子は居ないのに、足は、勝手にそこへ向かう。
「助けて、助けて~」と、心の中で叫びながら、、、。
そして、板を打ち付けられた、無人の家を悲しく見ると
船着き場の突堤の先に行き、ぺたりとコンクリートの上に座り込んだ。
その先に見える海は、真っ青で美しく、渡って来る風に
ゆらゆらと揺れていた。
「聡さん、、」この海の、はるか向こうに、今、会いたい人が居る。
「聡さん、聡さん」あの夜の様に、抱きしめて欲しいと思う。
しかし、それも、もう出来ない、不倫で生まれた忌まわしい自分。
だから、幸せになれそうだと思うと、直ぐ駄目になるんだ。
私に係ると、皆が不幸になる、私は、本当に疫病神だったんだ。
そんな私が、聡さんの傍に居ちゃ、いけないんだ。
聡さんまで、不幸にしてしまう、もう、二度と会ってはいけないんだ。
ほろほろと涙が頬に伝う、会ってはいけないのに、会いたい
会いたくてたまらない、聡さんに会いたい。
その会いたいと言う思いは、涙の一粒一粒となって、いつまでも流れ続けた。
長い時間が経ち、やっと涙が止まって、少し考える。
もう、東京へは戻れない、かと言って、この町にもいられない。
私は、何処へ行けば良いの、、、だが、何処にも行く所は無かった。
目の前の青い海が「それなら、ここへおいでよ」と、ゆらゆらと揺れて誘う。
「そうよ、そこへ行けば、辛い事も、全部消えちゃうわ」
梨乃は、そう決心したのだが、死ぬ前に、渚に電話をして
美幸と聡介に、有難うと、さようならを、伝えてもらおうとした。
だが、スマホを忘れて来たことに気付く。
「私って、本当に、肝心な時に抜けてるのよね~」そう思って
スマホを取りに帰ろうと、重い腰を上げた。
だが、冷たいコンクリートの上で、長い時間、師走の冷たい風に
さらされ続けた梨乃の体は強張り、どうにか立ち上がったが
フラフラで、体は、思うように動かなかった。
頭も、ぼぅっとしていて、周りも良く見えない、梨乃は、それでも
足を励まして、少しずつ、家へと向かった。
梨乃が、会いたいと願っていた聡介は、その日の朝、空港に着いていた。
梨乃に会いたくて、予定を、早く切り上げて、帰国したのだ。
早速、梨乃に電話をしたが、出なかった。
「渚ちゃんの所かな』と、渚に電話をすると
「マスター、大変よ、梨乃のお父さんが、亡くなったの」と、告げられ
思いがけない事に、驚きながら、詳しい事を聞く。
「帰る前には、電話をくれるって言っていたけど、まだだから
片付けが終わらなくて、まだ向こうに居ると思うわ」
そう聞いた聡介は、そのまま、国内線のカウンターに急いだ。
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