父の死

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通勤者の為に、朝の便は多い、直ぐに乗る事が出来た。 いつもは速いと思う国内線も、今日は遅く感じるが、飛行機は定刻通り着いた タクシーに飛び乗り「永浦市の剣先町まで行って下さい」と、告げる。 気の良さそうな運転手は「お客さん、今の便で着いたという事は 東京の人ですか?」と、聞く。 「ええ、そうです、剣先町までは、どの位の、時間がかかりますか?」 急いでいる聡介は、そう聞いた。 「昔は遠くて、時間がかかったんですがね、今は、高速が出来たので 40分で行けます、高速に乗りますか?」 「ええ、出来るだけ急いで下さい」「承知しました」 直ぐに高速に乗ったタクシーは、ぐんとスピードを上げた。 「剣先町と言えば、今の知事さんの出身地でしてね 海産物が美味しい所ですよ」東京の人の為にと、運転手は、そんな話もして 「そう言えば、その知事さんの懐刀と言われていた 松本さんが亡くなったそうで、知事さんは、がっくりしているそうですよ」 「その、松本さんの家に行きたいんですが」 「そうでしたか、剣先町の、何丁目ですか?」と、高速を降りながら聞く。 梨乃が、門倉で働く事になった時、正彦から手紙を貰った。 しかし、何丁目だったかは、覚えていない。 「確か、月見が浜の近くと、聞きましたが」「月見が浜ですね」 運転手は、ナビに月見が浜と入れ、その指示通りに走る。 聡介は、途中で何度も梨乃に電話をしたが、出なかった。 『電話に出られない程、忙しいのかな』聡介は、そう思った。 タクシーは、町はずれの浜辺に有る、一軒家に着いた。 聡介から、料金と思いがけないチップを貰った運転手は 大喜びで、トランクから聡介のスーツケースを取り出して、渡すと 「有難うございました」と、お辞儀をして帰って行った。 聡介は、玄関のチャイムを押したが、何の応答も無い。 出掛けているのか、まさか、もう東京へ向かったのか? 聡介は、四度目の電話を掛けた、すると、玄関のドアのすぐ向こうで 着信音がする「何だ、スマホを置いて、出掛けているのか」 どおりで、何度電話しても出ない筈だと、聡介は、ほっとする。 これは、帰って来るまで、待つしかないなと、スーツケースを置いたまま 浜辺の方へ、歩いてみた。 小さいが、綺麗な浜だな~と、視線をその先に向けた聡介は、ぎょっとした。 梨乃の姿を見つけたのだが、明らかに様子が変だった。 一歩一歩が、まるでスローモーションの、映像のような動きで 一歩踏み出すごとに、体が大きく揺れて、いまにも倒れそうだった。 「梨乃っ」叫びながら、走り寄って両手を差し伸べると 梨乃は、その中に崩れる様に、倒れ込んだ。 「どうしたんだっ」と、抱きとめた梨乃の体は、氷のように冷たく がくがくと大きく震え、何か言おうとする口も ガチガチと震えて、歯の根が合わない。 抱き上げて家まで走り「鍵は?」と、バックの中を探って、鍵を見つけ 玄関を開ける、とにかく温めなくてはと、ストーブを付けようとしたが 灯油の残量は、ゼロになっていた。 がらんとした部屋を見回したが、暖を取れそうなものは、何もない。 何か、何か無いのか、聡介は、押入れを開けた、布団が有った。
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