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「じゃ、行こうか」映画館は、歩いて行けるほど近い、駅の傍に有る。
連れ立って歩きながら『マスターは、スマートでお洒落で、イケメンで
歳より、うんと若く見えるけど、40過ぎの小父さんに変わりは無い。
こんな私達を、周りの人は、どう見ているのかな~』
梨乃は、心の中で、そう呟き
間違っても、恋人同士とは思っていないだろう、とも思う。
門倉は、入り口で、ポップコーンと、ジュースを買ってくれた。
梨乃は、初めてポップコーンを食べながら、映画を観る。
漫画を実写化すると、大抵が、幻滅すると言われていたが
この映画は良く出来ていて、梨乃は夢中になって、内容にのめり込み
映画が終わると、大満足な顔になったが、手元を見て
「あっ、ポップコーン、全部食べちゃってる」と、空っぽの入れ物を見せる。
「あはは、良かった良かった、映画もポップコーンも、喜んでくれて」
門倉は、空っぽの入れ物を、ゴミ箱に捨て
「お昼過ぎちゃったね、何か、食べに行こう」と、言う。
「え?映画だけでしょ、ご飯食べるって、聞いて無かったけど」
「そうだけど、俺、梨乃ちゃんと映画に行けるのが嬉しくて
朝ごはん食べられなかったから、もうお腹が減って、、良いだろ?」
梨乃の方は、ポップコーンを食べたので
それ程、お腹は減っていなかったが、映画も、楽しかったし
梨乃と一緒に映画に行く嬉しさで、ご飯も、食べられ無かったと言う
門倉の為に、付き合っても良いかなと「じゃ、お供します」と言った。
「有難う、何が良いかな~和食?洋食?イタリアン?」
「私、回転寿司って、まだ行った事無いの」「そうか、じゃ、そこへ行こう」
門倉は、嬉しそうに歩きながら「梨乃ちゃんが付き合ってくれて、嬉しいよ。
一人の食事って、味気なくってね」と言う。
「マスター、一人なんですか?」「うん、普段は、お客さんが居るけど
休日は、全くの一人だからな~」「マスターには、家族は居ないの?」
「うん、うちの両親は、事故で死んでしまったんだ、俺、一人っ子だったから
もう、家族は、誰も居ないんだよね」門倉は、明るい声でそう言い
「梨乃ちゃんは?」と聞く
「私は、小さい時に母が死んで、今は、父と二人です」
「そっか~お父さんが居るんだ、良いな~」そう言った時
タクシーが、クラクションを鳴らしながら、二人の横に停まった。
「梨乃ちゃん、大変だよ、北沢が火事で焼けちゃったんだ」と
停まったタクシーから、顔を出した、運転手の井上が、叫ぶ様に言う。
「火事って?、、」一瞬、何のことか、良く分からなかったが
「渚、、渚はっ」渚は、夕方まで寝ると言っていた、まさか、まさか、、
「渚ちゃんは、救急車で、中央病院へ運ばれたそうだ」
「井上さん、中央病院まで行ってっ」門倉が、もうタクシーのドアを開け
梨乃を押し込みながら言う。
タクシーは、スピードを上げ、病院へと急ぐ。
渚っ、渚っ、無事なのか、怪我は酷いのか、梨乃は、青い顔で震えた。
その梨乃の肩を、門倉がしっかり抱いて「大丈夫、大丈夫だ」と、囁く。
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