真夜中三時の青椒肉絲

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 私の瞳が驚愕に見開く。  と同時に、あぁそう言えばそうだったっけなぁ、だなんてどこか他人事のような気分でもあった。  生前の全部を思い出して、ステージ袖にいるダイゴローの方を見た。  彼は昔の面影を残したまま、確かに大人になっている。  どうして私が幽霊になれたのかも、何故このタイミングだったのかも、摩訶不思議だ。  だけれども、ここにいる理由が明確になった。  私はまだ、彼に何一つ伝えてきれていなかったのだ。  本当はあの時に言いたかったこと。  それでも私は死んでたと思うけど。  心残りはそれだけだったから。 「私、大ちゃんのことが好きだったよ……」  最大級に可愛い笑顔を魅せて、紡いだ。  リズムも何も無い、ただの告白だ。と同時に返事を必要としない、ただの自分本位な戯言でもあった。  世の中をそこまで恨んでいたわけではないし、クソ親父をそこまで憎んでいたわけでもないし、じゃあ何故死んだの? って聞かれても実は答えに困るんだけど。  そうなんだけど、あの時唐突に死にたいって思ったんだ。  私が死んだ時の大ちゃんの顔を見たいと思ってしまった。  私が死ぬ事で彼の人生が絶望に染まればいいと思ったのかもしれないね。  実際のところ彼は私の存在によって今まで苦しめられていたのだから、思惑は大成功だったのだろう。  そして私はそうすることで人を好きになれたと勘違いしていた。  苦しめていい他者は、好きになった人だけだと無邪気にも信じた。  ……だって私も、誰かを好きになる方法を教わってなかったから。  言葉なんていつも殴られる原因でしか無かったから。  伝える、なんてそんなこと思いつくはずもなかったんだ。  正真正銘私の言葉にダイゴローは驚いて、それから照れくさそうな笑顔を見せた。  あぁ、これで良かったんだなぁ。  私、たぶん馬鹿だったよなぁ。 「……あの頃、知れていたら、なぁ」  ダイゴローの言葉を聞いて、そうだよねって頷いた。  もうどうしようもないからね、って神様が言ってるみたい。  私はそうだね、仕方ないねって笑った。  思いを告げたあと、私の身体は半透明になっていく。  それでこのまま、さよならなんだ。  呆気なくて、しょうもないよねぇ。  たぶんきっと全部間違ってた。  それでもまぁいいかって思うから、後悔はないや。  やりたかった事も、やれなかった事も、なんも無い人生だったなぁ。  人を好きになる意味さえ知らなかったんだよなぁ。  それを親や周りのせいにするのは簡単だけど、そう思うことすら面倒だったあの頃。  私はたぶん、生まれてすらいなかったんだよ。  必死に大人たちに抗うダイゴローと出逢うまでは。  それがきっと私の恋に落ちた理由。  ね、単純明快でしょ?
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