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次の夜には、私はクラブの舞台上に立っていた。
ダイゴローが店の人に話を通してくれていたらしい。驚く程あっさりと私は初舞台を与えられた。
それを優しさと受け取るべきか、何か裏があると怪しむべきか。
けれど、彼の音が部屋全体を満たすとそんなことはどうでも良くなっていた。
次の瞬間には、私の口が自分のものじゃないみたいにするすると言葉が出てくる。
信じられない。私の中には何かを伝えるための言葉が眠っていたみたいだった。
本気で何かを伝えようだなんて思った事がなかったもんだから、そんな力があることに素直に驚いた。
これは爆弾だ。私の身体の中に爆薬が大量にあって、そこに言葉という着火剤が投下される。ジジッと火種が唸って、一つが爆発する。そしてそれが残りの爆弾を誘発させていくのだった。さながら、体内ビックバンのようだ。
額から汗が飛び散って、頭ぶん回して、髪の毛がミラーボールの光を受けて輝いている。
リリックを紡いでいるこの瞬間だけ、私は自由になれた。
くだんない過去を全部脱ぎ捨てて、私は一言ずつ確かに噛み締めていた。
新しい言葉は毎夜のように紡がれていって、それが私の夜を彩る。あぁ、今日も生きてんだなってそればかりを実感させられる。
そんな夢みたいな日々が続いていたある日のこと、ダイゴローが唐突に言い出した。
「キノコ、今夜だけは思い残しのないようにな」
「……?」
「言いたいこと、全部言えよな」
それから、ダイゴローは私の皿に青椒肉絲を乗せてきた。私の好物だとでも思っているらしかった。
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