真夜中三時の青椒肉絲

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 その日から、俺と彼女は良き親友となった。  部活のある日もない日も、一緒に水中で生きる同志となったのだ。  遊びみたいに泳ぐ日もあれば、真剣にタイムを競う日もあった。俺はバタフライが得意で、彼女はクロールが得意だった。  当然ながら、他愛のない話も沢山するようになる。  互いに好きなものがなかったから、必然と嫌な記憶、苦手なことの話になっていたけれど、そんな時間もどうしてか楽しかったんだ。  その流れの中で、俺は彼女の家庭事情を知ることとなる。  彼女の家は有り体にいえばクソだった。  特に父親は母親と彼女を日常的に殴っていて、そのせいで母親は少し前に家を出ていったらしい。  外側から見た彼女の家は裕福であったし、父親の外面もいいために周囲はその闇に気づかない。それがまた彼女自身を追い詰めていたのかもしれない。  あの頃、彼女の不幸を知れてどこかほっとしている自分がいた。  そんな現実を必死に生き抜いて、うだるように暑かった夏が終わった。  とはいえ、残暑の残る秋口になっても水泳部の活動はあるのだが。
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