6章 リョウの恩師

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6章 リョウの恩師

 病院を出て、ジャック、セイラ、リョウは、ゆっくりしようと事務所へと向かっていた。  が、何故、こんなことになっているのか。  セイラは治療を嫌々受けて歩けるはずなのだが、今はジャックの背中に体を預けている状態だ。 「ったく、何やってんだよ、こいつは……」  ジャックはため息をついた。  セイラは相当病院が嫌いというのはわかった。だからといって倒れるほど、病院を拒否しているとは。  一応、治療を受けたが、治療中、失神してしまった。  医師もこれにはびっくり。  でも、異常がないことから、あまりに苦手すぎて失神したとのことだった。  そんなわけで、ジャックがセイラを背負っているというわけだ。 「病院だけでこんなに失神するとは思わなかったな」  リョウもセイラを見るなり、呆れている。  事務所に帰ってくるなり、ジャックはセイラをソファに寝かせて、毛布を掛けた。 「なんだかんだいって、随分と優しいじゃねぇか、セイラに」  リョウは肘でジャックの腕を突いていた。 「なんだよ、うっせーな」  ジャックは、ドカッとカウンターの椅子に座り込む。  それから、数分後、辺りが騒がしくなってきた。  その騒がしさに、セイラも目を覚ます。 「せっかく気持ちよく寝てたのに、なんだ……?」  まだ、寝ぼけ眼のセイラは、辺りを見回してゆっくりと立ち上がる。 「おまえなぁ、寝てたって……失神してたんじゃねぇのかよ」  ジャックはセイラを睨みつける。 「ん?」  セイラはジャックを見て目をぱちくりさせている。  のん気な奴だなぁと思いながら、ジャックは扉を開ける。  騒がしいけれど、なんだか人々は楽しそうだ。 「今日、なんかあったか?」  リョウは首を傾げている。  ジャックは、手を広げてわからないというポーズをする。  本当に今日はお祭りでもあるのか。やけに楽しそうにしている。ジャックは、様子を見に行く。  屋台も並んでいる。  いつもは静かなこの街も今日は、華やかだ。 「あの、今日、何かのお祭りですか?」  ジャックが街の人に聞く。 「今日は聖なる日、神に祈りを捧げる日なのよ」  少しぽっちゃりとした中年の女性が楽しそうに答える。 「神に祈りを捧げる日?」  ジャックの背後からセイラが聞き返す。  いつの間にいたんだと驚きながら、ジャックはセイラの姿を確認する。 「そうよ、今日は特別な日。神に感謝してお祝いする日なの。だから、お祭り騒ぎなのよ」 「神って……」  リョウもやってきた。  この2人は一体、いつの間にここにいるんだよと心の中でツッコミを入れたジャック。フーと息を吐きながら、中年の女性の話を聞く。 「ルダー様よ」 「ルダー……」  ジャック、セイラ、リョウはルダーの名前を聞いて、呆然とした。これまで、何度ルダーの名前を聞いたか。  しかし、お祭り騒ぎだった状況は一変した。  急に悲鳴が上がった。 「なんだ……」  ジャックは悲鳴のするほうへと向かう。  ジャックに続いて、セイラとリョウも悲鳴のするほうへと向かった。  人が倒れている。その人は大量に流血していて、首がへし折れている。 「いいか! ルダー様に逆らうと、こうなるんだよ。覚えておくんだぞ」  男の声がする。  男は、倒れている人の首をもぎ取って放り投げた。  放り投げられた首は、リョウの足元へと転がる。 「……!」  リョウは素の首を見るなり、拳を強く握りしめた。 「……ギーロさん………」  リョウの声が震えている。  その異変にセイラはリョウに声をかけようとしたが、あまりに以下入りに震えていて声が出なかった。  その首はギーロという男の首。リョウにとってはとても大事な人なのだと、怒りから感じとれる。  ジャックは、ハッとした。  リョウも恩師を捜してくれと依頼してきた。  ギーロの名前も知っていて、この怒り。今にも爆発してしまいそうな怒りを見ると、ギーロというこの首がリョウにとっての恩師だと、ジャックは確信した。 「もしかして、リョウの恩師……なのか……」  ジャックは、あまりの残酷な死を遂げたギーロを見て、恐怖心が強くなった。  リョウは静かに頷くと、ギーロの首をもぎ取った男へと拳を振り上げた。 「てめぇは絶対に許さねぇ!!」  男はゆっくりと振り返り、いとも簡単に拳を受け止めた。  リョウは更に蹴りを入れようとしたが、男はスーッとかわして、鳩尾にパンチをくらわせる。 「ううっ」  リョウは膝をついて、早い呼吸を繰り返した。軽いパンチに見えて、意外と強いパンチで、一瞬、呼吸が止まったような感覚を覚える。 「リョウ!」  セイラが、リョウのほうに歩み寄ってこようとしたとき、男は背を向けて、去っていこうとする。その去り際、男が言う。 「弱いくせに俺に向かってきたなんて、随分と勇敢なんだね」  穏やかな口調だったが、その口調は恐ろしさも含んでいた。そして、急に口調が強くなり激しくなった。 「でも、俺に向かってこようなんて100年早いんだよ!!」  男はそう言い残し、去っていく。 「貴様……!」  リョウは、ゆっくりと立ち上がって、男を追っていく。 「リョウ!! 待てって」  ジャックはリョウを止めようとしたが、すでに遅し。男を追って走り去ってしまった。 「すぐに追うぞ」  ジャックは、セイラに声をかけて、リョウを追っていこうとしたときだった。  セイラの背後で人が倒れる音がしていた。  セイラは冷や汗をかく。恐る恐る振り返ってみると、人がバタバタと倒れている。そして、セイラの首には剣がつきつけられていた。
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