21人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
1章 盗賊と女海賊
「わかった、引き受けよう」
ニッと笑って答えたのは、ベリーショートの銀髪、体型は細マッチョの男。
年齢は21歳。男の名をジャック・レオナルドという。
ジャックはカウンター席で、スーツ姿にハットの帽子をかぶった男と話している。
ここはパブだ。ここのパブは、ジャックが、仕事の依頼を受け付けている場所だ。
「リドルの街にいる輩は、意味もなく人の命を奪って物を盗む。それじゃあ、あんたのメンツも丸潰れだよなぁ」
男はため息をついた。
「そうだな、俺は何の罪のない人たちの物を盗む気はないし」
ジャックは呆れながら、男に署名を求めた。
署名をしないと、仕事は成立しない。たまに文句を言いにくることもあるので、ちゃんと承諾したという証拠を残すためだ。
「これでいいか?」
男は署名をすると、ジャックに書類を渡した。
「あぁ、OKだ」
「では、よろしく頼む」
そう言って、一足先に男はパブを出た。
ジャックは男を見届けると、長い息を吐いた。
「あの男は信頼していいのか?」
誰もいなくなったパブに、ジャックの声だけが響いていた。
仕事の依頼をしておいて、金を払ってくれずに、ただ働きになることも、しばしばある。
ジャックも盗賊だからというのもあるだろう。
盗賊に仕事を依頼しようなんて普通は思わない。
「まぁ、とりあえず行ってみるか」
ひとりでブツブツと言いながら、パブを後にする。
リドルの街に向かって歩き出すジャック。
そこで、一番大事なことを忘れていたことに気がついた。
「あれ? リドルの街ってどこ? 場所聞いてねぇじゃん……」
ジャックは額に手を当てた。
リドルの街がどこにあるのか聞きたいが、今は、人が全然歩いていない。
それもそのはず。皆が寝静まっている時間だ。
「どうするかなぁ……」
大きな独り言が合図になったか、背後から影が忍び寄ってきていた。
ジャックはまだ気がついていない。
影は、スーッとジャックの横を通り過ぎる。
その瞬間、何かを抜き取られた。
「誰だ!?」
ジャックは素早く腕を掴み、足払いをした。
影が体勢を崩しても離さない。すかさず、腕で首を絞める。
「俺の物を盗ろうとするとは、いい度胸だな。俺、盗賊だぜ」
ジャックはニッと笑った。
「さっき盗ったのはこれだよな?」
短剣を影に突き刺した。
影が盗ったのは、ジャックが、人の命を奪おうとした盗賊から盗んだ短剣だった。
首を絞めた時に奪い返していた。
「何者……!?」
影は呆然として振り返る。
影の声は男だった。
ジャックより少し年上か。その男は、ジャックを認識して大慌てで離れようとした。
「ジャ……ジャック!?」
「へぇ、俺、有名なんだなぁ」
男の震えた声に、ジャックはのん気に呟いた。
「おまえ、盗賊のクセに人助けして! 盗賊から物を盗むから厄介なんだよ。盗賊なのか盗賊じゃないのか、はっきりしろよ!!」
ジャックは、呆れた様子で男を見つめていた。
「俺、盗賊だけど」
どうやら、ジャックは、盗賊の中では有名らしい。
物を盗むだけでなく、戦闘能力も高い。
そのため、悪さをすれば、同じ盗賊といえども容赦しない。
特に人の命を奪ったり、傷つける盗賊に対しては排除される。
男が怯えるのも、このためだ。
「俺はむやみに人の物を盗むことはしない。まぁ、昔はやっていたけどな」
ジャックは、短剣を指でくるくる回しながら、ため息をついた。
「で? どうするんだ? 大人しくするって言うんだったら、このまま逃がしてやる」
男は何も言わずに逃げ出した。盗賊だからなのか、逃げるのはとてつもなく早い。
「ったく……」
ジャックは逃げる男の背中を見ながら、呆れかえった。
ちょっとしたアクシデントがあったが、気を取り直して、リドルの街を探して歩き出す。
最初のコメントを投稿しよう!