1章 盗賊と女海賊

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1章 盗賊と女海賊

「わかった、引き受けよう」    ニッと笑って答えたのは、ベリーショートの銀髪、体型は細マッチョの男。  年齢は21歳。男の名をジャック・レオナルドという。  ジャックはカウンター席で、スーツ姿にハットの帽子をかぶった男と話している。  ここはパブだ。ここのパブは、ジャックが、仕事の依頼を受け付けている場所だ。 「リドルの街にいる(やから)は、意味もなく人の命を奪って物を盗む。それじゃあ、あんたのメンツも丸潰れだよなぁ」  男はため息をついた。 「そうだな、俺は何の罪のない人たちの物を盗む気はないし」  ジャックは呆れながら、男に署名を求めた。  署名をしないと、仕事は成立しない。たまに文句を言いにくることもあるので、ちゃんと承諾したという証拠を残すためだ。 「これでいいか?」  男は署名をすると、ジャックに書類を渡した。 「あぁ、OKだ」 「では、よろしく頼む」  そう言って、一足先に男はパブを出た。  ジャックは男を見届けると、長い息を吐いた。 「あの男は信頼していいのか?」  誰もいなくなったパブに、ジャックの声だけが響いていた。  仕事の依頼をしておいて、金を払ってくれずに、ただ働きになることも、しばしばある。  ジャックも盗賊だからというのもあるだろう。  盗賊に仕事を依頼しようなんて普通は思わない。 「まぁ、とりあえず行ってみるか」  ひとりでブツブツと言いながら、パブを後にする。  リドルの街に向かって歩き出すジャック。  そこで、一番大事なことを忘れていたことに気がついた。 「あれ? リドルの街ってどこ? 場所聞いてねぇじゃん……」  ジャックは額に手を当てた。  リドルの街がどこにあるのか聞きたいが、今は、人が全然歩いていない。  それもそのはず。皆が寝静まっている時間だ。 「どうするかなぁ……」  大きな独り言が合図になったか、背後から影が忍び寄ってきていた。  ジャックはまだ気がついていない。  影は、スーッとジャックの横を通り過ぎる。  その瞬間、何かを抜き取られた。 「誰だ!?」  ジャックは素早く腕を掴み、足払いをした。  影が体勢を崩しても離さない。すかさず、腕で首を絞める。 「俺の物を盗ろうとするとは、いい度胸だな。俺、盗賊だぜ」  ジャックはニッと笑った。 「さっき盗ったのはこれだよな?」  短剣を影に突き刺した。  影が盗ったのは、ジャックが、人の命を奪おうとした盗賊から盗んだ短剣だった。  首を絞めた時に奪い返していた。 「何者……!?」  影は呆然として振り返る。  影の声は男だった。  ジャックより少し年上か。その男は、ジャックを認識して大慌てで離れようとした。 「ジャ……ジャック!?」 「へぇ、俺、有名なんだなぁ」  男の震えた声に、ジャックはのん気に呟いた。 「おまえ、盗賊のクセに人助けして! 盗賊から物を盗むから厄介なんだよ。盗賊なのか盗賊じゃないのか、はっきりしろよ!!」  ジャックは、呆れた様子で男を見つめていた。 「俺、盗賊だけど」  どうやら、ジャックは、盗賊の中では有名らしい。  物を盗むだけでなく、戦闘能力も高い。  そのため、悪さをすれば、同じ盗賊といえども容赦しない。  特に人の命を奪ったり、傷つける盗賊に対しては排除される。  男が怯えるのも、このためだ。 「俺はむやみに人の物を盗むことはしない。まぁ、昔はやっていたけどな」    ジャックは、短剣を指でくるくる回しながら、ため息をついた。 「で? どうするんだ? 大人しくするって言うんだったら、このまま逃がしてやる」  男は何も言わずに逃げ出した。盗賊だからなのか、逃げるのはとてつもなく早い。 「ったく……」  ジャックは逃げる男の背中を見ながら、呆れかえった。  ちょっとしたアクシデントがあったが、気を取り直して、リドルの街を探して歩き出す。
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