夏想う、冬の空

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「それ、続いてるじゃん。郁美(いくみ)の中で。成人式のときの話でしょ?今でも、いまだに、ていうかむしろ今?思い出してんだからさ」 目を瞬く。 「そう、ですかね」 「そうでしょ」 飲み干したコップを、しいちゃんがテーブルに戻す。指先のネイルは、いつもきれいなビタミンカラーに整えられている。 「そうだよ、いくみん」 隣から再び私をのぞき込む、かわっちの笑みはふんわりマシュマロのようにやわらかい。 「いくみんから、男の子の話してくれるなんて初めてじゃない。人見知りすごいもんね、あたしが初めて声かけたときも、下唇だけぱくぱくさせてて、糸で動かす操り人形みたいにぎこちなくって。カフェの店員さんにも、縦か横に首振るだけよね。直角にしか動けない、ブリキの人形みたいになってるもん」 「確かに、いまどき、ロボットさんの動きももっとなめらかですよね。緊張時の私より」 かわっちの、くすくす笑いが飴玉を転がすように響く。 「ホントだよね~。いまだにですますでしゃべるし、長い付き合いのしいちゃんでもだし」 ぺこりと頭を下げた。 「その方が落ち着くんです。決して距離を置いてるとかじゃなく、根っからの脇役キャラなもので」 「うんうんわかってるよ~。最初はちょっと挙動不審に見えるけど。いくみんはマジメで控えめでいい子で。そのいくみんがねえ。って、なんかあたし、子供の入学式に来たおかあさんみたいになってる?ねぇしいちゃん、て、聞いてる?どしたの?」 しいちゃんは、とんとんと軽やかにスマホに指を走らせていた。ポンと通知音とともに届いたメッセージにひとつ肯くと、おもむろに立ち上がる。 「よし。浴衣買いに行こう」 「あれ、しいちゃん今日は予定あるんじゃなかった?」 「都合ついた、だいじょぶ」 横にスマホを傾けて、にんまり笑顔になる。のぞきこんだかわっちが手で口元を覆い、親指と人差し指でOKのわっかを作る。楽しそうな二人に、私もうれしくなった。 「行くよ。郁美も」 「はい」
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