夏想う、冬の空

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 二人にいちばん似合う浴衣を探そう。と気合を入れて臨んだ、のに。売り場についた早々、 「これも、これもいいんじゃない?」 「こっちかな。郁美、濃い色のがいいかも」 「うん、紺色いいね、椿の柄、カワイイ~」 かわっちとしいちゃんが、あれこれ取ってきては私に当ててくれる。どうにも落ちつかなくて、 「私のものより、どうぞ二人の浴衣を」 と申告した。 「私は洋服でいいですし、花火も後ろから見るだけですので」 教室でも端の席を選ぶし、道を歩くときも必ず端に寄る。隅っこに暮らしたい性分なのだ。注目を浴びると石になるよう生まれついたんだと思う。だから、私には役名もセリフもなくていいので、脇で役割をまっとうさせてもらいたい。 「言うと思った。でもさ、花火大会だよ?観客Aとして参加したとしても、ここは浴衣でしょ。花火なんだから」 「そうだよ花火だよ?屋台もあるよ?夏だよ!」 言われてみれば、たしかに。 「端役としても、花火大会という場面に合わせるべきですね」 「にしても、ドライブか。夜に集まりなおしたでっかい飲み会のあと?あたし、途中からバレー部の子たちと別の飲み会行っちゃった」 「私も、帰るところだったんですよ。同じ方面だから、って送ってもらえる流れになって」 酒井くん、お酒飲めないそうで、地元で飲むといつも運転手役になるそうです。 「家が遠い人のところから回ることになって、小学校の方に行って、その先山じゃないですか」 「うんうん」 「ダムまで行こうぜって、結構できあがってた後ろの席の男子が盛り上がって」
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