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「それだけです」
回想を終えて、紙コップのアイスティーに口をつけた。
「おかしいですよね。真っ青な空に入道雲、太陽は地球を恨むかにぎんぎらぎんと照りつける真夏にですよ、思い出すのは冬の空、なんて」
冷房が効いた学生食堂の中で、腕に冷たい風が吹きつけて肌寒さを感じたからか。半年も前のことを、今頃語ってしまった。ほんと私ときたら、季節もタイミングもズレている。
幼なじみのしいちゃんと、大学でお友達になったかわっちは、二人そろってまだきょとんと顔を見合わせていた。慌ててつけたした。
「すみません、それこそ夏の夜の風物詩、花火大会に浴衣で行こうってもりあがってたのに」
「いや、花火よりさ」
しいちゃんの目がきらりと光る。受け止めて、かわっちの笑顔がはじけた。
「恋の花が咲こうとしてるんじゃない?」
ね!いえいえまさか、身を乗り出してくる二人を制する。
「ついしゃべってしまったんですけど、さっきも言った通り、それだけ、なんですよ。続きはないですから」
ただ、もう夏だな、ひとつひとつ季節が過ぎてくなって、思って。
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