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 私の婚約者──マルセルは、伯爵家の三男だ。  兄弟の中でもずば抜けて頭が良く勉強熱心な彼は、見聞を広めるために外国に留学している。  マルセルが旅立つ前日。私がめそめそ泣いていると、彼は「ローナは大げさだなぁ。留学といっても、一年間だけだからあっという間だよ」と言って宥めてくれた。  けれど、彼のことが大好きだった私にとってその一年はとても長く、体感的には十年以上にも思えた。  そんな彼が、来月帰国するらしい。  なんでも、予定より一ヶ月ほど早まったそうだ。  マルセルと早く会いたい私にとっては、願ったり叶ったりだったのですぐに「楽しみにしています」と手紙の返事を出した。 「いよいよですね、お嬢様」 「ええ、楽しみすぎて待ちきれないわ」  専属侍女のハンナと、そんな会話を交わす。  ハンナは、私の侍女であると同時に大切な友人でもある。  マルセルがいない間、私の心を支えてくれていたのは彼女だったと言っても過言ではない。  大好きな婚約者と、気の置けない友人──私は、本当に人間関係に恵まれていると思う。  数日後。  私は、ハンナを連れて夜会に参加していた。  マルセルのいないパーティーは退屈で仕方ないけれど、貴族である以上社交界での付き合いは避けられない。  パーティーに参加している令嬢たちとの談笑を終えた後。不意にどっと疲れが襲ってきたため、私は会場を出て庭園の一角にある噴水の縁に腰掛けて休んでいた。  しばらくの間、そうしていると。ふと、一人の大柄な男が私のほうに向かって歩いてくることに気づく。  男は、まるで寝起きのようなボサボサの髪に作業着と思しきサロペットといった出で立ちだ。身なりからして、とてもパーティーの参加者とは思えない。   「あんたがローナ・アッシェリマン男爵令嬢か?」 「ええ、そうだけれど……あなたは?」  怪訝に思い、眉をひそめる。  次の瞬間。男はニッと口の端を吊り上げたかと思えば、突然私を組み敷いた。 「何をするの!? 離して!」 「悪いな。あんたに恨みはないけど、金のためなんだ。我慢してくれよ」 「……!?」  私はそのまま男に手で口をふさがれ、助けを求めることもできず──否応なしに犯されてしまった。
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