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3.
「お帰りなさい! マルセル!」
マルセルの顔を見るなり、私は彼の胸に飛び込んだ。
けれど、何故か彼は浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「……」
怪訝に思い、マルセルの顔を覗き込むと。
彼は、言いにくそうに話を切り出した。
「帰ってきて早々、こんなことを言うのも気が引けるんだけど……」
「……?」
「ローナ。君との婚約を破棄したいんだ」
「え……?」
なんで? どうして? それ以外の言葉が思い浮かばなかった。
私、何かマルセルに嫌われるようなことした?
いや、そんなはずはない。だって、私はいつも全身全霊で彼を愛していたから。
「じょ……冗談よね? もう、マルセルったら。質の悪い冗談はやめ──」
「他に好きな人ができたんだ。彼女のことを考えると、胸が苦しくて……こんな気持ち、初めてだよ」
現実を受け入れたくない私に、マルセルは容赦なく言葉を被せてきた。
「船に乗っている間、ずっと考えていたんだ。これ以上、自分の気持ちに嘘をつきたくなかったんだよ。それに……こんな気持ちのまま結婚しても、君に対して失礼だろう? だから、どうかわかってほしい」
「…………」
言葉を失ってしまう。
確かに、彼の言う通りだ。他の人に気持ちが向いているのに、無理に結婚してもうまくいくわけがない。
未練がましく縋り付いてもみっともないだけなので、私は泣きたくなるのをぐっと堪えて笑顔を作った。
「──わかったわ。婚約を解消しましょう。気持ちが離れてしまったのなら、引き止めても仕方ないものね」
もしかしたら、気丈に振る舞っているだけなのがばればれかもしれない。
けれど、最後くらいはいい女でいたかった。きっと、私の気持ちは彼にとって重かったのだろう。
きちんと反省するべきところは反省して、潔く彼とお別れしなければ。
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