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4.
「ありがとう、ローナ。わかってくれて嬉しいよ」
「あの……一つだけわがままを言ってもいいかしら?」
「何だい?」
「お別れする前に、もう一度だけ私を抱いてくれませんか?」
「え?」
マルセルは目を瞬かせると、意外そうな顔をした。
正直、自分でも何故こんなお願いをしてしまったのかわからない。
さっき、潔くお別れしようと決心したばかりなのに。
──未練たらたらで格好悪いわね、私……。
「もちろん、気が進まなかったら断ってくれても構わないわ」
「別に、嫌ではないから大丈夫だよ。よし、わかった。君がそこまで言うなら……」
マルセルは、快く私の願いを聞き入れてくれた。
その日の夜──私とマルセルは、肌を重ね合わせた。
そうして、歳月は流れ。
気づけば、あれから数ヶ月が経っていた。
マルセルとの婚約を解消したのとほぼ同時期に、侍女のハンナが退職を申し出た。
理由を聞いてみれば、やはりあの事件以来どうしても自責の念に苛まれてしまい今後仕事を続けていくのが難しくなったとのこと。
私に対して申し訳が立たない、とひどく憔悴した様子で邸を去っていった。
同時に二人の大切な人を失った私は、心にぽっかり穴が空いたような感覚に陥っていた。
それでも日々は過ぎていくので、私は喪失感に悩まされながらも毎日を必死に過ごしていた。
そんなある日、例の暴漢が捕まったという知らせを受けた。
あの時、男は「金のため」とまるで誰かに雇われて行動しているかのような言い方をしていた。
背後に黒幕がいるのは間違いなさそうだったが……結局、彼は口を割らないまま獄中で自害してしまったらしい。
婚約を解消してから、ちょうど半年が経過した頃。
私のもとにマルセルの訃報が届いた。死因は病死らしい。彼の家族の話によると、彼の新しい婚約者も後を追うように病気で亡くなってしまったそうだ。
マルセルの身に一体何が起こったのだろう? あまりにも突然すぎて、悲しみよりもまず先に疑問が湧いた。
──半年前まで、あんなに元気だったのに……一体なぜ?
けれど、その疑問は数日後に私を訪ねて来た主治医の先生の話によって解決した。
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