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6.
「アッシェリマン家か……なるほど、道理で聞き覚えがあると思ったら……」
「あ、あの……どうしたんですか? 先生」
「ローナ嬢。つかぬことをお聞きしますが、あなたのご先祖様に優れた魔導士はいらっしゃいませんか?」
「魔導士ですか? そういえば、アッシェリマン家は千年前の大戦で活躍した英雄──大魔導士アドルファス・アッシェリマンの末裔だという話を聞いたことがあります。そのせいか、アッシェリマン一族はみんな魔力が高いです」
「やはり、そうでしたか……」
「……?」
不安感を覚えつつも先生の顔を覗き込むと、彼は私の目を見据えて説明を始めた。
英雄アドルファスは、その高い魔力を駆使して自身の免疫力をコントロールしていたお陰で病気にかかってもすぐに治ってしまっていたそうだ。
だから、彼の末裔である私も無意識にその力を使っている可能性が高いと。詰まるところ、そういう話だった。
「要するに、私はもう治っているということですか?」
「ええ。きちんと検査をしてみないとわかりませんが、その可能性が高いでしょう。さて、あなたの元婚約者の症状の進行が何故か早かった件についてですが……」
先生は一呼吸置くと、続きを話し始める。
「前述の通り、アドルファスは魔力で自身の免疫力をコントロールしていました。当然、感染症を患った経験もあったようですが、治すにあたって一つだけ問題点があったそうなんです」
「なんですか? 問題点って……」
「どうも、治るまでの間に身体の中でウイルスがより致死率が高いものへと変異してしまっていたらしいんです。一説には、彼が持っている膨大な魔力が関係していると言われていますが……本当のところはわかりません。とにかく、彼から感染した人間は無事ではいられなかったんですよ」
「私も、無意識にそれをやっていたかもしれないと……つまり、そういうことですか?」
「ええ……あくまでも、仮説ですが」
先生は、戸惑ったような表情でそう返した。
私は動揺した。もしそれが事実なら、間接的にマルセルや彼の新しい婚約者を殺してしまったようなものだからだ。
「おっと、もうこんな時間だ。長居してしまって申し訳ありません。話は以上です。とにかく、すぐに検査に来てくださいね。……明日にでも」
先生は一礼すると、くるりと背中を向けて部屋から出ていった。
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