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7.
翌朝。
いつもより少し早く起きた私は、先生の言いつけ通り検査に行こうと思い身支度を整えていた。
ふと、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきたので準備を中断する。
そして、少しだけ扉を開けて隙間から顔を出した。
「失礼します。お嬢様宛にお手紙が届いております」
「ありがとう。受け取るわね」
そう返し、私はメイドから手紙を受け取る。
差出人は──マルセルの実姉だった。
──マルセルのお姉様が、私に手紙を……?
婚約を解消する以前、彼女にはとても良くしてもらっていた。
マルセルとの関係を断ってからは、気まずいこともあって全然連絡を取っていない。
なんとなく嫌な予感がしたけれど、とりあえず封を切って手紙を読んでみることにした。
「え……?」
手紙を読み終えた私は、唖然とした。
マルセルの姉は、手紙の中でひたすら謝罪と懺悔をしていた。
何故なら、そこに書かれていたのは──マルセルとハンナがもう何年も前から恋仲だったこと、体裁よく婚約解消したいがためにマルセルがスラム街のごろつきを雇って私を強姦させたこと、私が傷つくと思いマルセルとハンナが婚約したことを内密にしていたこと等々……どれも、私にとってはショックが大きすぎる内容だったからだ。
お姉様の話によると、マルセルは昔からプライドが高く出来ることなら自分から婚約破棄を切り出したくなかったらしい。「きっと、弟はあなたが性被害に遭って精神を病めば体よく別れられると考えていたのだと思う」と書いてあった。
──ああ、そうか。私、裏切られていたんだ。
ハンナのあの態度も、全部演技だったのね。
さも責任を感じて仕事を辞めるかのように振る舞っていたけれど。
全てを知った今、「元婚約者とその恋人を間接的に殺してしまった」という罪悪感は吹き飛んでいた。
「おかしい……なんだか、急に眠くなってきたわ。こんな時なのに……」
昔からそうだった。何故か、肝心な時に眠くなってしまうのだ。
異常なのはそれだけではない。起きている時も、たまに自分の意に反する言葉を口走っていたりするし……。
──先生、ごめんなさい。今日は検査に行けないかも……。
不意に襲ってきた眠気に耐え切れず、私は椅子に座ったまま意識を手放した。
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