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8.
***
「──あーあ、だから『気が進まなかったら断ってくれても構わない』って言ったのに。あの時、断っていれば死ななかったのに馬鹿だなぁ。あのマルセルとかいう男。……ま、今回死ななくてもいずれ別の方法で殺していたけどな」
そう言って、おもむろに椅子から立ち上がると、俺は姿見の前に立った。
うーん、やっぱり俺の子孫はいつ見ても可愛い。この娘を『器』に選んで正解だったな。目の保養になる。
とはいえ……今までの器と違って自我が強いせいか、いつでも自由に行動を操れるわけではないのが難点だが。
「しかし、ローナも見る目がないよな。俺なんか、マルセルと初めて顔を合わせた瞬間から奴がダメ男だと気づいていたというのに……」
千年前。今際の際に、俺は咄嗟に肉体と魂を切り離す禁呪を使った。
それ以来、自分の子孫に憑依することを繰り返しながらアッシェリマン家の人間たちを見守っている。
何故、禁呪を使ったのかというと──シンプルに早死にだったからだ。大抵の病気は自力で治してきた俺でも、残念ながら治せない病気はあったのだ。
二十代で、結婚したばかりで子供もまだ小さかったのに病死とか……いくらなんでも可哀想すぎるだろ、俺。
というわけで。ローナには悪いけど、もう少しだけ身体を借りさせてもらおう。
「その代わり……お前を傷つける人間は今後もこの俺が──大魔導士アドルファス様が責任を持って闇に葬ってやるからな。安心しろ」
呟くと、俺は鏡に向かってニカッと笑った。
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