桜日和

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***  頭上の数字が減っていけど、身近で「0」になった人はいなかった。初めて「0」になった祖母はこの世界から旅立った。 「疲れたあ」 「もう汗だくだよ」  体育終わり、汗だくの体をタオルで拭う。更衣室中でいろんな制汗剤の匂いが混ざり合い異臭な空間が完成する。思わず顔を歪めてしまう。 「使う?……って、そういえば制汗剤の匂い嫌いだったっけ?」 「嫌いってほどでもないけど、苦手である」 「制汗剤を使わなくてもいつもいい匂いだからいいよねえ」  過度なほどの人工的な匂いは嫌いだ。すれ違う人の香水の匂いにも顔を歪めてしまう時がある。さすがにその人に見えるようにはやらないが。 「ここもそうだけど教室に戻ってもきついんじゃない?男子も使ってるし」 「教室に戻れば涼しいからマスクもできるし、いいよ」  この学校に特例は見当たらない。みんな高校生だから頭上の数字は基本的に大きい。 「くっさ。なんかモワっとしてるし」 「マスクマスク」  このクラスも平均的に数字が高い。ただ、一人を除いて。  空白の席に視線を送る。最初、そして最後に見た数字は誰よりも小さかった。 「まだ匂いきつい?窓開けようか?」 「大丈夫だよ」  祖母のおかげで気付くことができた。おかげなんて言うのは不謹慎かもしれない。本当のことをいうと気付きたくなんてなかった。いつまでもおまけ程度の存在であってほしかった。  この数字は、その人の寿命を表していた。
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