桜日和

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***  夏休みに入った。 「やっと夏休みだぜえ。私は自由だー!」 「別に自由じゃないって。課題も多いし、午前中は学校もあるし」 「ちっ、クソだな」  日に日に暑くなる7月の終わり。今でもこんなに暑いのに8月に入ればもっと暑くなるだろう。夏なんて本当にいいことがない。 「そういえば、あれ行く?」 「あれって?」 「嫌だなあ、あれって言ったらあれしかないじゃん」 「いや分からないって」  私は変な力が備わってはいるけれどテレパシーは使えない。他人の心なんて読めてもいいことなんてないだろうし気分も悪いだろう。 「やれやれ。そんな君にヒントを授けよう」  答えを当てるまで終われないらしい。 「夏といえば?」 「広いな……暑い?」 「そんな大雑把なわけないでしょ」 「そうだろうけどさ、分かんないって。答え教えて」 「もー、夏といえば夏祭りでしょ?」 「ああ……」  この地域では8月16日に毎年夏祭りが行われる。たいして有名でもないので祭りに来る人は基本的に地元の人だけだ。見知った顔ばかりが集まる、要するに大規模な同窓会だ。 「何がそんなに楽しみなの?」 「祭りだよ?普通楽しみでしょ」 「そんなもんかなあ」 「かー。これだから最近の若者は」  夏祭りの最後に上がる打ち上げ花火。それを一緒に見た二人は結ばれる。そんなどこにでも転がっているありふれたジンクス。 「それが目当てかよ」 「ちゃんと祭りも楽しむよ」  人が多ければ多いほど見える数字の数も多くなる。それなりの人の多さがあれば少ない数字も見えてしまう。赤の他人とはいえ何も感じないわけではない。普通に笑っている人ももうすぐ死んでしまうと思うと心が痛む。自分にはどうしようもない現実にも。 「楽しむって、具体的には?」 「そりゃあ何やっても楽しいよ。私は、隣を歩けるだけで」 「……私と行く気はないんだ」 「そんなこと言ってないんじゃん」 「そんな風なことは言ったよ」
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