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高校生の流行りは恋愛らしく、麦は一つ上の先輩に恋をしている。男女は別だが同じ部活らしい。
「その先輩に彼女は?」
「ふふふ、いません!」
「ああ、そう。ならそのジンクスを信じて誰か誘うんじゃない?」
「その誰かが私かもしれないじゃん?」
「随分ポジティブだこと」
麦の言う通りその可能性もないわけではない。皮肉にも私に見えるのは絶対で可能性ではない。
「日和はどう思う?」
「いや知るわけないじゃん。2、3回顔見ただけだし」
「どうしようかなあ~」
それなりに多くの人で賑わう夏の夜。各々がそれぞれの思いとともに祭りを楽しめる場所なのに、私だけは違う。
「日和は去年行ってないんでしょ?なんで?」
「別に楽しみでもないから」
恋している人がその辺の人ごみですら気になる人を探してしまうように、私も探してしまう。気になってしまう人を。見えてしまうゆえに。
「青春時代なのに?変なの」
どうしようもないと分かっているのに目で追ってしまう。この言い方だけは恋愛してる人みたいなのにな。
現実はそんなファンシーな話ではない。死という概念こそ最も現実的であり、残酷なほどにどうにでもできない事実だ。
「あ」
いきなり麦が間抜けな声を上げて止まった。
「何?」
「いや、あれ」
麦が指さした方向には人がいた。それだけを確認してすぐに視線を戻す。
「知り合い?」
「いや?」
「じゃあ指さしたりじっと見るのは止めなよ。失礼だって」
「あんな恰好してたら誰だって見るだろ」
「恰好とか服装とか法に触れてない限りその人の自由だって。他人がどうこう言う権利はないの。分かったら行くよ」
「いやいやいや。好きで病衣着てる人なんていないって」
「病衣?」
その言葉を聞いた瞬間に気付くべきだった。病衣を着ているということは何かしらの理由で入院しているだろうから。
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