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「……21」
公園のブランコにさみしく座るその人は確かに病衣を着ていた。
「ていうかあれ……」
ショックを受けている私を置いて麦はその人にゆっくりと近づいていく。その人に悟られないようにゆっくりと。
「もう止めなって」
「やっぱりあれ入学式で前に出てた首席の人だよ」
「うちの学校の?」
「うん」
「でも噂じゃあ入院してるって……」
その事実をその人は明らかにしていた。
「でもまさか」
急いでスマホを開きカレンダーを確認する。入学式があった4月1日に見た数字は間違いなく「137」だった。そして今日7月25日だ。あの日から経っている日数を何度計算、もとい数えてみても。
「……合ってる」
「やっぱり?」
「え?あ、いやそっちじゃなくて」
「じゃあどっちよ?」
合っているのは数字のことではあったけど、合ってるのはきっとどちらもだ。
「……声かける?」
「知り合いでもないのに?」
「そうだよね。なんて言えばいいのか分からないし」
学校にはほとんど来れずに入院生活の毎日なのだからきっと気分はどん底だろう。知り合いでもなくその気持ちが分かるわけでもない。そんな他人に何ができるというのだろう。その上私はいつも以上に普通ではいられないはずだ。
もうすぐ寿命が尽きてしまうと分かっているから。
「あ、やばい」
麦の声で我に返る。
「何?どうしたの?」
「目、合っちゃった」
「はあ?」
「あ、今は今ない方がいいと思うよ。めっちゃこっち見てるから」
「だから言ったのに……」
「日和よ、過去を嘆くより今どうすべきかを考えようではないか」
「何かいい方法でもあるわけ?」
呆れつつさっきの人の方へ視線を戻す。
「あれ?」
長く視線を外したわけでもないのに、さっきの人はいつの間にかいなくなっていた。
「よかった。どこかに行ったみたいだね」
「よく見なよ」
「え?」
何度見てもさっきまで人がいたブランコには誰もいなくて、今度は寂しそうにブランコが揺れているだけだ。
「そっちじゃなくて」
麦が私の頭ごと視線を修正する。
「どうやら事態は悪化したようだ」
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