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さっきまでブランコに乗っていたはずの人が公園を入り口から出て真っ直ぐにこちらに早歩きで向かってきている。恐ろしい形相というわけではないが、その視線は私達から他へ逸れようとしない。
「やばいって。どうする?逃げる?」
「逃げるって、麦がずっと見てたせいでしょ?謝りなって。謝ったら大抵のことは穏便に済むはずだから」
ひたすらに逃げようとする麦の手を掴みながら必死に頭を回転させる。もしかしたらただ道を聞きたいだけかもしれないし、私達の後ろを見ているだけなのかもしれない。どっちにしたってここで逃げる方が不自然だ。
「ねえ!」
その時が来てしまったので二人して覚悟を決める。
「あ、やっぱりそうだ。間違いない」
まだ何のことかは分からない。
「二人は何年生ですか?」
「い、一年」
「同学年じゃん!実は俺も同じ高校なんだよね。今はこんな格好だけど」
やっぱりそうなんだ。
「知ってます。入学式の時代表で前に出てましたよね?」
「嫌だなあ、同学年だし敬語やめようよ」
「あ、ごめん」
「そうそう。なんか一番成績が良かったらしくてさあ、ほんと参ったよ」
勝手に想像していた人物像と全然違っていて拍子抜けする。こちらとしては助かるけど。
「で、どんな感じなの?高校生活は。楽しい?」
「ふ、普通」
「普通じゃ分からないって。俺さ、いろいろあって学校に行けてないんだよね。だから友達もまだいなくて焦ってたんだよねえ。まさかこんなところで友達ができるなんて思いもしなかったから嬉しいなあ」
そんな偶然な出会いから始まった私達の関係を彼は喜び、麦も人を拒む性格ではないので受け入れるのに時間はかからなかった。公園で軽くお互いの自己紹介を済まし、私達は彼、夜永桜に聞かれ、学校生活のことについて話していた。夜永くんはそれを楽しそうに聞いていた。
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