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あわよくばの上のやつ
圭人はゲイや。真性のやつ。
そしてそれを公言してるわけなくて、家族にも言うてないらしい。
親にカミングアウトせんのか聞いたら「恐ろしいこと言うな」って返されてその時は「そりゃまあそうか」で終わったけど、そんな軽いもんやないんやと、オトンの発言で思い知った。
顔も見えんネット上だけやなく親からあんなこと言われるなんて、実のところは想像もしてなかったんや。
浮気がわかった日、交際をオッケーした当時の俺が「多分なんも考えてない」って言う圭人にそんなわけあるかて答えたけど。たぶんこういうことやったんやろな。
別にオモロいからとか流されてとかのつもりはなかったけど、覚悟なんてそんなん、しらんやん。
一番仲のいい友だちが必死の形相で、関係を続けるか完全に切るか選べ言うてきたら、そりゃひびるやん。
気の合う友達。
一緒におって心地いい存在。
そりゃそうや。
あいつから俺へ向けられてたのは、友情やなくて愛情やったんやから。
あわよくばなんて感情が圭人の中にある、決してイーブンの関係ではなかったから俺が居心地ええんは当然やった。
それでも。好きになったよ? ちゃんと。
体を明け渡してはいいと思うほどに。ちゃんと。
ただ、未来を渡せたかどうかは───。
「??」
突然鳴り始めたスマホに慌てて鼻を啜りあげ、発信元を確認する。
それは高校のクラスメイト、ゲリラ素麺の坂崎からの着信やった。
「ようー、ひさしぶりー」
電話の向こうから能天気な声を出す坂崎は中国地方の大学に進学してて、高校卒業後もたまにLINEや電話でやりとりもしてたけど、声聞くんはまあまあ久しぶりや。
「ひさしぶり。どした?」
「いや、今、山田も一緒やねんけど、成人式も結局ないし、クラスメインの仲間うちで集まらんかってなって。冬休みで皆まあまあこっち帰ってきてるやろ」
クラスメインの仲間うち。
そうなると自ずと浮かぶ存在に、さっきまでの重い気持ちが一層重くのしかかる。
「で、年末の予約は忘年会とかいっぱいでむずいと思うねん。年始4日くらいならまだ頭数揃いやすいやろ? やから今からクラスライン生きてるやつには送ろうと思てるねんけどー。おまえ高校の時、まあまあ暇そうな居酒屋? 焼き鳥屋? でバイトしてたやろ。気まずくなかったら年始に店予約できるか聞いといてみてくれへん? まあそんな人数集まらんかもしれんけど」
「そ、れは……」
気まずいのは、元バイト先やなくて元カレや!
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