62人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
ブーメラン
深く考えたこと、正直なところなかったと思う。
そりゃ人にアピールできるような話とは勿論思ってなかったよ。可奈ちゃんへのカミングアウトも圭人と別れた流れの勢いみたいなもんやったけど、まあなんかすんなりいったというか、受け入れてくれたというか、そんなんやったから、こんな風に、しかも親からあんな差別的なこと言われるなんて、実際考えてはなかった。
男と付き合うこと。付き合っていくこと。
圭人と別れて切れた関係ではあるけど、そうでなかったとして。圭人が浮気せんかったとして。俺はどこまで圭人と続けていく気やったんやろ。
恋人として付き合ってから一緒に過ごしたのはそう長い時間やなかったから、どっか現実を見てなかったのかもしれへん。
圭人やなくて女の子と付き合ってたとして、俺は別に親には言わへんと思う。気まずいから家に連れてくるかもアヤシいくらいや。けど圭人はそもそも友達やったからガンガン家にも連れて来たし、親とも顔見知りやって。
やからなんか漠然とそんな感じでいくんやと、思ってたんやろう。
さっきのオトンの暴言を聞いて実際ムカついたよ?
平成生まれの平均的な教育を受けた俺が、化石みたいな昭和のオッサンの差別発言に、ドン引きしたよ?
けど。
けど、俺のどっかの部分が「別れててよかった」って。
やから俺は、その、「差別を受けてる人」とは違う、て。
そう、思った。
傷心で気分やってもうてた癖して。
圭人を好きやって気持ちも、まだ捨ててない癖して。
そんな感傷を抱えたまま。
圭人とは別れたし、ゲイやないから。
やから、恥ずべきことは、もう、ない、なんて。
オトンに向けた言葉は完全にブーメランで。
ほんま──最低や。
最初のコメントを投稿しよう!