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その後の私たちは、今の話と、これからの話だけをした。
宇宙標準語を学ぶのに、どんな教材を使っているか。
好きな映画や音楽の話。
若者が、私のスケッチセットに興味を示したので、好みの色鉛筆についてはずいぶん熱く語ってしまった。
若者が、ふと窓の外に目をやったので、つられてそちらを向くと、
夜が白々と明けるところだった。
思わず目を見合わせて笑ってしまう。
窓から見下ろすと、白く砕ける波は、夜中に見た時よりもずいぶん下の方に見える。
チキュウサイゴ ノ ヨル。
アタラシイ ユウジン ガ デキマシタ。
アリガトウ。
そう言って若者が頭を下げたので、私も、
ドウイタシマシテ。
コチラコソ、アリガトウ!
そう言って、頭を下げた。
顔を上げると、若者は目をキラキラさせながら、
「ヒョウジュンゴ ハジメテ!!」
そう言ってくれた。
言われた初めて、私は自分が宇宙標準語を使っていなかったことに気が付いた。
若者は、少し寝ます、そう言って席を立った。
そして、ラジオ体操の歌を口ずさみながら、自室へ戻っていった。
私は、おそらく地球で迎える最後の夜がすっかりあけて、
雲の切れ間から覗く空が青いのを確認してから、自室へ戻ることにした。
新しい朝が来た
希望の朝だ
喜びに胸をひらけ
大空仰げ……
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