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出会い
「お前あいつが好きだろう……」
目の前あの男は突然そう言った。
男は長身でスポーツでもやっているのか、逞しい身体をしていて無精ひげを生やしたままの顔は男臭ささえ感じた。
「誰ですか?」
見知らぬ男。整った顔立ちはしているがモデルではなさそうだ。
「俺を知らないのか?」
「失礼ですが、全く知りません」
薄暗いスタジオの角。いつもは無いテーブルのセットに腰掛けている。男の周りには誰もいない。
こんなところにテーブルセットなんてなかったから、何か特別な人物なのだろうけど何も聞いていないし男の関係者らしき人も見当たらない。
白いスクリーンの前で撮影されているのはマネージャーをしているモデル・淳。
男はテーブルに置かれた鞄から名刺を取り出す。
「時谷空也。小説家だ」
差し出された名刺には確かにそう書かれていた。
「…………時谷先生?」
その名前を聞いて、慌てて姿勢を正す。
「お、知ってたか」
「えっと……はい」
慌てて名刺を受け取る。時谷空也(ときたにくうや)。
タイトルを聞けば誰でも知っているミステリー作家。いくつも映像化されているし、有名な賞の受賞作品も多い。
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