募る愛しさ

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「空也は……何時に帰ってきたんです?」 「1時半かな」  じゃあそんなに経ってない。  すぐに寝入ってしまったてことか……。  以前はそんなことなかったのに。 「ほら」 「ありがとう」  差し出された眼鏡を受け取ってかける。 「飯できてるぞ」 「はい……」  パジャマのまま洗面を済ませてリビングに行く。 「今日は帰りは早いのか?」 「えっと……早いかな…」 「曖昧だな」  パンを頬張りながら時谷がニヤッと笑う。 「今日はドラマの収録があるので時間は分かりません」 「そうか、なら帰る前にメールしてこい」 「はい」  パンを千切って口に運ぶ。  コーヒーで流し込んで半熟のスクランブルエッグと野菜炒めを食べる。 「時間がないので…」  急いで皿をかたづけてスーツに着替える。  時間を見るともう45分。  携帯と手帳、財布……。  鞄に詰め込んで玄関に向かう。  いつものように空也が付いてくる。 「行ってきます」 「ああ」  顎を掴まれる。 「時間が……ないんです……」  なのにキスを受け止める。  触れるだけを何度も繰り返して離れた。  名残惜しいような……。  いつもはもっと……。
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