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でも、顔は一切出てないため、どんな人物かは知られていない。
「本人ですか?」
思わず口に出してしまった。想像していた人物とはほど遠く、もっと年老いた作家を想像していた。それに、時谷の出した本の全てを所有している。
大ファンなのだ。
「お前、失礼な奴だな……」
「え、あ、すいません。突然だったので……」
時谷は笑いながら身を乗り出して顔を近づけてくる。
「な、何ですか?」
「最初に言ったこと覚えてるか?」
「え?」
何のことか分からずに頭を傾げた。
「お前、あいつのこと好きだろう」
指さしたのは『淳』。
「そんな訳ないでしょう。担当のモデルですよ」
「でも、好きなんだろ?」
「違います」
持っていた鞄を落としそうになって慌てて掴み直す。
「慌てる所が怪しいよな」
「…………」
「お前さぁ、俺にも名刺くれよ」
「お断りします」
さっきもらった名刺をテーブルに置いて押し返した。すれ違い様に一瞬カバンが引かれた気がしたが、振り返らずに淳の元に向かった。
時谷はジッと、こっちを見つめていた。
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