出会い

2/9
463人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
 でも、顔は一切出てないため、どんな人物かは知られていない。 「本人ですか?」  思わず口に出してしまった。想像していた人物とはほど遠く、もっと年老いた作家を想像していた。それに、時谷の出した本の全てを所有している。  大ファンなのだ。 「お前、失礼な奴だな……」 「え、あ、すいません。突然だったので……」  時谷は笑いながら身を乗り出して顔を近づけてくる。 「な、何ですか?」 「最初に言ったこと覚えてるか?」 「え?」  何のことか分からずに頭を傾げた。 「お前、あいつのこと好きだろう」  指さしたのは『淳』。 「そんな訳ないでしょう。担当のモデルですよ」 「でも、好きなんだろ?」 「違います」  持っていた鞄を落としそうになって慌てて掴み直す。 「慌てる所が怪しいよな」 「…………」 「お前さぁ、俺にも名刺くれよ」 「お断りします」  さっきもらった名刺をテーブルに置いて押し返した。すれ違い様に一瞬カバンが引かれた気がしたが、振り返らずに淳の元に向かった。  時谷はジッと、こっちを見つめていた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!