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繋がった淳の後ろは静かで、そこが駅ではない事は伺えた。
『えっと……事務所のある駅前の喫茶店』
淳は声を潜めている。
「急いでくれないと次の仕事に間に合いません」
のんびりした声に余計にイライラしながら止めていた車のエンジンをかける。
「店の前で待ってもらった方が早いです」
『………』
話している途中で向こう側から、店のカウベルの音が聞こえた。
「聞いてるんですか?」
『あ、いや、聞いてなかった……』
「とにかく店の前で待っててください」
急いで電話を切って、車を発信させて喫茶店に向かう。
店の前に横付けすると中から淳が慌てて出てきて、助手席に乗り込む。
「誰かと一緒だったんですか?」
「ああ。直樹と」
「なんで?!」
驚いて声を上げてしまった。接点なんかなかったはずなのに……。この間の事件が脳裏をかすめる。ただ、淳が1年近くも彼に片恋してる事は知っているから、表立って非難はしない。
「電車で移動してたら痴漢に遭ってたところを助けたの。あ、お前、弁護士に連絡して駅に連絡入れとけ、名刺は……」
ゴソゴソとジャケットのポケットを探す。その手が止まる。
「宮、店に戻れ」
「戻りませんよ。ただでさえ遅刻なんですから」
「名刺入れ忘れた」
「それくらい代わりがあるでしょう?」
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