出会い

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 これまでは『JYUN』を2人でこなしてきたからスケジュール調整のために1人でしてきたけど、年末の公表後は1人ずつマネージャーを付ける準備が進んでいる。  鞄からスケジュール帳を取り出す。一緒に出てきたのはさっきの名刺。 『お前あいつのこと好きだろう?』  突然言われた。  本当の事だけど、本当じゃない。  家が隣同士で、忙しかった2人の母親に変わって初音の母が3人を育てた。  可愛らしい双子は近所でも評判で、幼い初音も淡い恋心を抱いていた。  女の子だと思っていたから……。  気が付いたのは小学校の入学式。別々の制服を着ている2人を見て愕然としたのを覚えている。  何をするのも3人一緒で、姉弟のように育ってきた。  潤が女子大に行ったので、別々にはなったが、淳とは同じ大学に進学した。  潤が芸能活動を本格的に始めて、遊び心もあったのか淳が女装して代理を勤めることが度々あった。  私も同じ事務所で一時期モデルをしたことはあったが、すぐに辞めてその事務所に就職して、2人のマネージャーになった。淳を幼い頃好きだった気持ちは今も変わらないけど、それが恋かと聞かれると全く違う。友愛だ。  それに育ってきた環境を理解して、唯一心を許せる相手なのだ。  なんで『あいつが好きだろう?』と聞かれたのかよく分からなかった。  あんなに若い人だったんだ。大学時代からずっと追いかけて読み続けている作家だ。  少し年上だろうけど、そんなに変わらない感じだった。  無精ひげが似合う男らしさで、とても小説家には見えないがっちりとした体躯。  何で顔を出さないのか。あの容姿ならもモテるだろうし、テレビ映えもしてコメンテーターなんかもできるだろう。  そういえばなぜあんな所にいたんだろう。雑誌の写真撮影の現場。接点があるようには思えない。
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