ー1一

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正直なところ、ミュータントたちを管理するための組織は必要だったが予算がなく、新しく新庁を作るわけにいかなかったのだ。 それでいて世界各国の情報も共有しなければならないということから、厄介ごとのように外務省に仕事が押し付けられたのである。 「外務省の職員が、どうしてここに?」 「私も詳しいことは聞かされてないの」 10年経ったいまでも、ミュータントたちによる犯罪が時々話題に上がる。 現状、彼らと対峙するとなると武力によって制圧せざるを得ないのだが、ここへきて彼らの人権を守ろうとする動きが高まり、警察としても、容疑者を容赦なく射殺して正当な判断であったと言えなくなってきたのだ。 そこで、ミュータントたちが絡んだ案件を扱う部署として公安12課が新設されることになり、そしてまた何故か、私が配属されることになったのである。 良くも悪くも、丹波のことがあって以来、私の人生はミュータントたちと深くかかわっている。 とはいえ彼らと遭遇する機会が劇的に増えた実感はなく、1年に3,4名お見掛けする程度だ。 それでも、丹波に出会うまではミュータントに接触したことがなかったわけだから、この日本ではミュータントたちと最もかかわっている部類の人間なのかもしれない。 「真斗くんも12課に用があるの?」 「そうだよ。今日からここに専属で。広報係だって。なぜか僕ご指名」 真斗が頭をかいた。 モサモサの癖毛がさらにぐしゃぐしゃになる。 急に警視庁に呼び出されて困惑しているのは私だけではないらしい。 「広報?なんでだろうね」 よければさ、と真斗が携帯をかざした。 「LINE、アカウント変わっちゃったんだ。また連絡先交換してくれない?」 私はうなずいて、背中からリュックを下し、中身を探る。 なかなか見つからず、昨日受け取ったばかりの辞令やら何やらを取り出してからやっとiPhoneを取り出した。 彼がクスクス笑い始める。 やっとのことで取り出した携帯に友達用QRコードを表示して真斗に読み取ってもらった。 「穂香は変わってないね」 「何?」 「大学の時も、いつも走ってて、探し物をしてた」 カッと体が熱くなる。 真斗と初めて出会った時も大学のロビーを疾走していた。 いまだにバタバタしているといいたいのだろう。 少し口を尖らせはしたものの、事実なので反論できない。 「恥ずかしいよね。成長してない」 「穂香らしいよ」 そう言う真斗も変わっていない。 モサモサの癖毛。 高いところから私をも見下ろしてくるその仕草。 私をまっすぐに見つめてくるクリクリの丸い目は大学時代から変わっていない。 何かを言いたそうなのに何故か飲み込むような表情をするのも、大学の時から変わっていない。 14階に到着してエレベーターノベルが鳴り、真斗の視線から目を外し、エレベーターのドアが開いた先のフロアを歩いていく。 エレベーターを降りてすぐ、一番手前のカウンターにいる50代くらいの男性に、真斗が声をかけた。 彼がいてよかった。 男性警察官は恐ろしいほどのこわもてで、わたしひとりだったら声をかけるまでにしばらくかかっていたかもしれない。 「12課に今日からお世話になるのですが」 すると、彼はあからさまにいやそうな顔をした。 どうも歓迎されていないらしい。 「ここをまっすぐ行って、一番奥の突き当りの会議室まで行ってください」
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