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言われた通り、フロアを抜けて会議室を目指す。
フロアにはほとんど職員がいない。
デスクにも何も置かれておらず、電話とノートパソコンが置かれているだけだ。
色もなく、なんとも殺風景な部屋である。
「なんかさ、歓迎されてないよね。話しかける人みんながいやそうな顔をするのはなんでかな」
「さあね。でも、公安なんかに部外者が入った来たら歓迎されないだろうなとは思うよ」
「そんなんだから警察官って嫌われるんじゃないの」
真斗は困ったような笑顔を浮かべた。
「公安のフロアで、そういうこと言っちゃう?」
確かに。
これ以上嫌われる必要はない。
突き当りの部屋の中に入るとすでに5人の警察官がいて、一番手前に座っていた女性が立ち上がり、私たちに微笑みかけた。
「初めまして。永野佑月です」
40代くらいの女性で、長い黒髪を後ろでキレイに束ねている。
びっくりするほどきれいな人だった。
黒いジャンプスーツを着ていて、身長が高い。
私も168cmあるので背が低い方ではないのだが、彼女の目線に合わせると少しだけ上を向くようになる。
高嶺の花子さん。
頭に浮かんだのはどこかで聞いた曲のタイトルだった。
「12課のチーフを任されています」
「よろしくお願いします」
永野が後ろの座席に2人ずつで座っている警察官を指した。
「この4人が、12課のメンバーです」
4人が立ち上がって頭を下げた。
永野の背後にいた30代前半くらいの男性は、背が190cm以上ありそうな上に体が大きい。
なんのスポーツをしていたのかは知らないが、絶対にこのおまわりさんには追いかけられたくない。
短髪だが、おそらく整髪料で髪をまとめている。
顔立ちも端正でオールバックが似合うのだが、どこか目に生気がなく、今日から新部署で働く2人を歓迎するような雰囲気は一切ない。
ハルク。裏でそう呼んでやると心に決めた。
「平川謙吾です」
名前以外言わず、口調も眠そうだ。
「はじめまして、上泉穂香です」
いつもの癖で握手のために右手を差し出すと、平川が冷たい視線でその手を見つめた。
慌てて手を引っ込める。
真斗がちらっと苦笑いを浮かべ、平川に頭を下げた。
「大塚です。フリーでライターをやってます」
「機密情報を扱う公安に記者が入る日が来るとはね」
真斗を見る平川の目は私に向けられたものよりも冷たかった。
それでも真斗はひるまない。
「同感です」
平川の顎に力が入る。
真斗は微笑みを浮かべたままだ。
なんだよ。私のことなんか言えないじゃないか。
初日からこんなバチバチやるなんて。
この先が思いやられる。
火花を散らす真斗と平川の間に、隣に立っていた男性が気まずそうに入った。
「私は水野聡です。SITから派遣されてきました。よろしくお願いします」
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