ー1一

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********************* 12課に配属になってから1か月後。 今日は私たちの部署が世にお披露目になる日だ。 永野とミキがプレス発表に参加することになっている。 私たち専用の新しいオフィスもできることになった。 今日からその新しい部屋で勤務することになる。 強面の公安の警察官からジロジロと迷惑そうな表情で見られながら仕事をすることもない。 高い天井、シーリングファン、天井からぶら下がったおしゃれな蛍光灯の照明。 デスクには最新のコンピューター。 大きな透明のボードに捜査情報を張り出し、みんなで情報を共有する。 ロフトにオフィスがあり、そこから私たちを見下ろすように永野が書類をかざし、高らかにミッションの開始を宣言する。 私の頭の中では、刑事もの海外ドラマのワンシーンが再生されている。 期待してはいけないと自分に言い聞かせるが、自然と足取りが軽やかになる。 新学期にクラス発表を見に行くような気分で歩いていると、後ろから肩をポンと叩かれた。 「おはよう」 黒のダッフルコートにネイビーのスーツで現れた真斗のブルネットの髪はくしゃくしゃのままだ。 大学時代の時から何も変わっていない。 顔をクシャクシャにする小さな子どものような笑顔も健在だ。 流石に警視庁にパーカーを着てくる勇気はないようで、ワイシャツに黒のネクタイを締めている。 「まだちゃんとスーツなんだね」 「一応ね。やっと着慣れてきた感じがするんだけど、どう?」 「新卒の大学生みたいだよ」 大塚が口をへの字に曲げた。 「僕、もう30だけど?」 「そういうところがまだ子どもっぽいの」 「そういう美穂だって、トレンチコートにタイトスカートとヒールなんてなかなかイカすけど、ウキウキなのが顔に出ちゃってるよ」 大学の時はヒールを履くなんて思わなかったけど、それなりにイケてる感を出すには絶対に必要アイテムなのだ。 外務省時代にパリ支部の超美人外交大使から、ピンヒールでの歩き方を教えてもらったのは最高の思い出だ。 昨日配布されたばかりの新しいIDでゲートを通り、エレベーターへと向かう。 通り際に守衛の警察官に手を振った。 「神野さんおはよう。もうすぐ夜勤明け?」 「あと2時間です」 神野は周りに気が付かれないように、顔こそこちらに向けないが、後ろで組んでいる手を小さく振り返してくれる。 ほとんど口を動かさず、目も合わせないままの会話だったが、それでもコミュニケーションをとれるようになったのは収穫だ。 初登庁から1か月。 外務省勤務で培った経験をフルに活かし、よそ者扱いから状況を好転させようと努力した。 どんな文化でも、笑顔でおいしいものをくれる人には敵意を抱かないものだ。 最初は挨拶をしたって素っ気なかった守衛の警察官に毎日根気よく笑顔を振りまき続け、何回か差し入れをした結果、それなりに親しくなれた。 実際は警備課の新人が守衛の担当にされるらしく、怖い先輩にいじめられている若い警察官と仲良くなるのは案外簡単だった。 今ではIDを忘れても何とか入れてもらえる自信がある。
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