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真斗は、右手でドアを支えたまま、仰々しく左手をドアの先へとむけた。
レディーファーストをこんな時だけ出されても困る。
キッと睨みつけると、仕方なしに真斗が先にドアに足を踏み入れた。
ドアの先も薄暗い蛍光灯がともっているだけで、壁もコンクリートむき出しである。
バイオハザードみたいだ。
先を歩く真斗の二の腕を思わず掴んでしまう。
彼は一瞬ピクっと震えたが、手を払ったりはしなかった。
ヒールの音が響く。
背後で締まったドアの音が廊下に響いて少し飛び上がってしまった。
ドアが閉まるとさらに暗い。
「期待はしてなかったけどここまでひどいとは思わなかったな」
「なんか出そうだよね」
ゆっくりと歩きながら突き当りまで進むと、もう一つドアが見えた。
期待を裏切らず、薄汚れた鉄製のドアの横に、同じくIDリーダーが付いている。
私がIDをかざし、ピピっと音が鳴ってロックが外れた音がした。
勢いよくドアを開けたのと同時に、中から何かが飛び出してきた。
「わぁ!」
廊下に響き渡る絶叫。
そしてその絶叫は私ではない。
肺の中の空気を一瞬で使い切る勢いで叫んだのは真斗だった。
一方の私は、中から飛び出してきた人物を反射的に拳で思い切り殴りつけてしまった。
ゴキっと音がした。
うめき声がする。
ドアの向こうに立っていたのは宮川だった。
一気に私の血の気がひく。
プリンスチャーミングの鼻を折ってしまったかもしれない。
真斗は蒼白になったまま固まっていた。
「ごめんなさい!」
うめき声をあげながら部屋の中に後退する宮川に、水野が氷を入れたビニール袋を差し出した。
「やめろって言ったのに。馬鹿だなぁ」
氷嚢を受け取った宮川が頬を冷やしながら私に話をつなげる。
痛そうだが、何故か嬉しそうだ。
「意外と武闘派なの?いいねぇ」
「本当にごめんなさい。痣になっちゃうかな」
私は氷で冷やしている宮川の手を避けて傷を確認した。
赤くなってしまっている。
うっとりしたような目をしながら、宮川が私に手を取って握った。
公安相手に手を挙げたらどんな罪に問われるのだろう。
宮川が怒っている様子はないので少し気は楽だが、この先また何かあった時に一般市民を見境なく殴るわけにはいかない。
やはり逮捕術は習得するべきか。
「君の手を当ててくれればすぐに良くなるさ」
私は苦笑いをしながら後退する。
心配なさそうだ。
「くだらないことをする宮川が悪いんだ。おかげで多少頭がよくなったんじゃないか?きれいな右フックだったよ。頼もしい」
水野が私にウィンクをした。
彼はこのチームの長男のような存在だ。
秋田犬のような人懐っこい顔をしているが、SITではトップクラスの狙撃手だったようだ。
彼自身は何も言わないが、以前宮川がそう教えてくれた。
水野を怒らせた奴は二度と日の目を見ないらしい。
「ちょっと。遊んでないで電源入れてみて」
殺風景な空間の真ん中で、槙野が高い脚立の上にまたがって座っている。
3メートルほどある天井に、プロジェクターを取り付けていた。
私たちが来る前からいろいろと作業をしていたらしい。
全員ジャージ姿で、ところどころ白いペンキが付いている。
水野がリモコンのスイッチを入れると、プロジェクターから白い壁に映像が映し出された。
地上波のテレビを受信しているようだ。
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