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「すごい!槙野さんがつけたんですか?」
「いいでしょ?テレビもPS5もやり放題。ホームシアターだよ。スピーカーも最新」
脚立の上から槙野がにっこりと笑った。
彼女にかかればメカ系はお手のものだ。
私のプライベート用のiPhoneは既に特別仕様に改良してある。
私もよくわかってないような機能がたくさんついたらしいが、とにかく今iPhoneが出している純正の最新機器よりずっと高性能らしいと言うことはよくわかった。
「ミキさんに頼んだら、いろいろ予算をつけてくれたの。すごいよ、あの人」
天井は高いが、恐ろしいほど何もない空間だった。
打ちっぱなしのコンクリートの壁、ランプのような照明が天井から等間隔に吊り下げられている。
蛍光灯ではなくかろうじてLEDを使っているようで、明るさは十分だが、無機質な感じは否めない。
新しいデスクが7つと、1人1台のパソコンが支給されているが、そのほかにはデスクに何も置かれていない。デスク自体もなんの変哲もない事務机だ。
入り口から見て左側の壁に天井まで届く本棚のようなものが設置されているが、まだ何も置かれていない。
ペンキのにおいがまだとれていないところを見ると、まだ塗ったばかりのようだ。
「勝手に壁の塗りなおしなんかして大丈夫なんですか?」
「平気でしょう。労働環境の整備は大事だよ。」
そういいながら宮川がぐるっと部屋を見回す。
「まだまだ味気ないからなぁ。とりあえずソファーがいる」
「宮川、自分の家にする気か?ここで寝泊まりしないでくれよ」
「みんなの部屋にすればいいんだろ?」
宮川は私に向き直ってニヤッと笑った。
「クイーンサイズのベッドとか置いちゃう?」
すると何故か真斗が宮川をキッと睨みつける。
宮川は両手を上げて誤魔化すように笑みを浮かべ、槙野が乗る脚立を抑えるフリをした。
水野は自分のデスクの椅子に座り、靴を履いたまま足をデスクに乗せている。
両手を頭に乗せ天井を眺めながめてボーっとするその様は、今日から新部署始動の緊張感などみじんも感じさせない。
「国連が噛んでる12課のオフィス、初日からDIYされてますけど」
ニヤついている真斗の肩をバシッとたたいた。
「さっきギャーギャー喚いて怖がってたくせに」
とぼけたような顔をする真斗。
大声で悲鳴をあげたことは無しにしているらしい。
誰も録画していないのが残念過ぎる。
「リノベするなら、言ってくれたら手伝ったのに」
「地下3階って聞いた時に嫌な予感がしてね。先に様子を見に来たら案の定のありさまだったから、少し整えようと思ってね。やってるうちに盛り上がってこうなったんだ」
宮川が部屋の奥にある大量のペンキの空き缶を指さした。
「せっかく外務省から来てくれたんだ。毎日頑張ってるから、少し驚かせてあげたくてね。ほのちゃんには秘密にしてたんだよ」
セクハラ上等の宮川だが、恐らくモテるんだろうなと思う。
見た目はよく、キザでも嫌味がないのだ。
「座席はどこでもいいんですか?」
「好きなところに座っていいよ。水野はもう確保したみたいだけど」
私は入り口から一番近い座席にカバンを置いた。
パソコン立ち上げ、電源を入れ、いつものパスワードを打ち込んでログインする。
ただ、ネットワークにつながっていないらしく、昨日までやった書類にアクセスできなかった。
「ネットはつながってるみたいなんだけど、まだ警視庁のデータにつながってないみたいなんだ」
「そんなことってあります?」
水野が肩をすくめる。
「ハッキングして繋いじゃってもいいんだけど、一応正規の手続きを取ってやらないと問題になるかなと思って手を付けなかったんだ。ほら、映ったよ」
脚立から降りた槙野が、リモコンを操作してチャンネルを変える。
ミキと永野が映るがチャンネルを見つけて、ボリュームを上げた。
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