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東京の11月の空気はピリッと冷え切っていた。
トレンチコートのポケットに手を入れ、人ごみの中を足早に通り抜ける。
朝、水野から渡された資料に載っていたのは表参道のとある施設だった。
まだクリスマスには早いような気がするが、メイン通りはイルミネーションで彩られている。
友達や、カップル、家族連れ。
それぞれの人たちが楽しそうに話しながらショーウィンドーの前を通り過ぎていくが、私の足取りは重かった。
表参道から小道に入り、ジュエリー店やブティック、イタリアンの店などを通り過ぎていくと、そこには児童相談所が現れる。この施設の特殊なところは、ミュータントの子どもたちを保護する役割を担っていることだ。
高級店が立ち並ぶ表参道に保護施設を作るなんてと、地域住民から大きく反対の声が上がったこともあるが、幾度にも説明会が重ねられて開設された。
すでに午後8時を回っている。
私が着いた時には建物内の電気は消えているように見えたが、10分ほど待っているとロビーに電気がともり、人影が見えた。
1人は女性。
もう1人は背が高く、体の大きな男性だ。
2人は一緒に外に出てきたが、自動ドアの外に出たところで女性が頭を下げ、建物の中に戻っていく。
モッズコートにスーツ姿の平川は、表参道駅の方に向かって歩き出そうとしたが、私を見つけて露骨にいやそうな顔をした。
「何か用でもあんのか」
「水野さんは、私がここへきたら平川さんは嫌がるだろうって言っていました」
「わかってるなら来るな」
会話を切り上げるように駅の方に歩き出す平川に私が駆け寄る。
足が長い平川の1歩は私の1.5歩だ。
平川は悠々と大股で歩くが、私は早歩きをしなければ追いつけない。
そして早川はそれをわかってやっている。
「私、平川さんと組ませていただくことになりました」
「そうか。頑張れよ」
興味ないというように、平川が足を速める。
私は負けじと彼の歩調に合わせて歩いた。
息が上がり、寒空の中で白く浮かび上がっている。
ここまで来たって、平川が私のことを受け入れてくれるとは思っていない。
それでも、できるだけのことをする覚悟はある。
「永野さんから聞きました。この児童相談所で、以前、死亡事件があった。ミュータントの子どもたちが3名、犠牲になったって」
約15年前。
この児童相談所で火災があった。
火災の原因は、ミュータントである入所者の暴走。
職員と口論になり、感情に歯止めがかからなくなった少年が持っていたのは発火能力だった。
結果として職員が1名、入所していた未成年のミュータント3名が犠牲になり、そのほか負傷者が大量に出たのだ。
平川は黙って歩き続ける。
私の顔すら見ようとしない平川の前に、私は回り込んだ。
「平川さんは、特殊能力保持者なんじゃないですか?」
彼は、冷え切った冬の夜風よりも冷たい視線を私に浴びせる。
負けるな。
頑張れ私、と言い聞かせ、私は平川の前に立ち続けた。
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