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「平川さんの経歴、きれいすぎるんです。警察に就職して交番勤務無しに、最初から公安。平川さんは優秀だから、と皆さん言いますが、私はそうは思いません。平川さんは、ミュータントとして採用されたんではないですか?」
「永野さんがそう言ったのか」
「いいえ。永野さんと水野さんが教えてくれたのは、児童相談所での事件のことだけです」
いつの間にか私は、平川の前で気を付けをして立っていた。
身体の横でピンと伸ばしたうでにさらに力が入る。
もしかしたら、張り倒されるかもしれない。
平川の目に浮かんだ氷のような殺気が私をとらえたが、スッと消えた。
「根拠はあるのか」
「ありません。でも、平川さんは周りに人を寄せ付けない」
「人嫌いなだけだ」
「入庁当初から永野さんとずっと一緒なのも気になります」
「それがなんだ」
「永野さんは、15年前の火災の担当刑事でした。平川さんは、当時17歳ですよね?」
「それだけか?」
平川の眉間にしわが寄る。
より険しくなった表情に、私は思わず目をそらしてうつむいてしまった。
「あとは……、外務省の仕事でミュータントのひとたちとかかわることが多かったんですけど、ミュータントの方たちって、人との間に独特の壁を作る方が多いんです。なんとなく、平川さんが似ている空気をまとってるなぁ、と思ったり思わなかったり……。分かんないんですけど」
平川がふうっと息を吐いて、呆れたように首を振った。
感心してくれるか、殴られるかのどちらかだと思っていた。
それがまさか、呆れられるとは。
「俺がミュータントだったらなんなんだ」
「私は能力保持者の皆さんを救いたいと思っています。平川さんとなら、12課の仕事をしっかり遂行できるのではないかと思うんです」
「本気で言ってるのか?」
「本気です」
平川は私から視線を外さない。
彼の瞳が一瞬、夜の空より深い黒に染まった気がした。
「外務省から来たって言ってたか」
「はい」
「本気でうまくやれると思ってるのか。警察での経験もなく、相手はミュータントなんだぞ。殺されるかもしれない」
「1案件だけ、最初の案件だけでも私と一緒に組んでくださいませんか。それでだめだと思うなら、永野さんに進言して私を降ろしていただいて構いません」
平川が私をよけて再び歩き出した。
ただその歩みはさきほどよりもゆっくりで、それとなく私の歩幅に合わせてくれている気がした。
「あの、この後ごはんとか行きますか?バディ誕生記念ってことで……」
「調子に乗るな」
私は小さく口を尖らせたが、平川は表情を変えずにただ歩き続ける。
「明日、本部に9時でいいな」
「はい!」
低い、感情のこもっていない声だったが、私には平川が嫌な人だとは思えなくなっていた。
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