ー1一

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「平川さんの経歴、きれいすぎるんです。警察に就職して交番勤務無しに、最初から公安。平川さんは優秀だから、と皆さん言いますが、私はそうは思いません。平川さんは、ミュータントとして採用されたんではないですか?」 「永野さんがそう言ったのか」 「いいえ。永野さんと水野さんが教えてくれたのは、児童相談所での事件のことだけです」 いつの間にか私は、平川の前で気を付けをして立っていた。 身体の横でピンと伸ばしたうでにさらに力が入る。 もしかしたら、張り倒されるかもしれない。 平川の目に浮かんだ氷のような殺気が私をとらえたが、スッと消えた。 「根拠はあるのか」 「ありません。でも、平川さんは周りに人を寄せ付けない」 「人嫌いなだけだ」 「入庁当初から永野さんとずっと一緒なのも気になります」 「それがなんだ」 「永野さんは、15年前の火災の担当刑事でした。平川さんは、当時17歳ですよね?」 「それだけか?」 平川の眉間にしわが寄る。 より険しくなった表情に、私は思わず目をそらしてうつむいてしまった。 「あとは……、外務省の仕事でミュータントのひとたちとかかわることが多かったんですけど、ミュータントの方たちって、人との間に独特の壁を作る方が多いんです。なんとなく、平川さんが似ている空気をまとってるなぁ、と思ったり思わなかったり……。分かんないんですけど」 平川がふうっと息を吐いて、呆れたように首を振った。 感心してくれるか、殴られるかのどちらかだと思っていた。 それがまさか、呆れられるとは。 「俺がミュータントだったらなんなんだ」 「私は能力保持者の皆さんを救いたいと思っています。平川さんとなら、12課の仕事をしっかり遂行できるのではないかと思うんです」 「本気で言ってるのか?」 「本気です」 平川は私から視線を外さない。 彼の瞳が一瞬、夜の空より深い黒に染まった気がした。 「外務省から来たって言ってたか」 「はい」 「本気でうまくやれると思ってるのか。警察での経験もなく、相手はミュータントなんだぞ。殺されるかもしれない」 「1案件だけ、最初の案件だけでも私と一緒に組んでくださいませんか。それでだめだと思うなら、永野さんに進言して私を降ろしていただいて構いません」 平川が私をよけて再び歩き出した。 ただその歩みはさきほどよりもゆっくりで、それとなく私の歩幅に合わせてくれている気がした。 「あの、この後ごはんとか行きますか?バディ誕生記念ってことで……」 「調子に乗るな」 私は小さく口を尖らせたが、平川は表情を変えずにただ歩き続ける。 「明日、本部に9時でいいな」 「はい!」 低い、感情のこもっていない声だったが、私には平川が嫌な人だとは思えなくなっていた。
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