序章

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「くだらないわ。もうやってないし。ミキが同じ授業とってくれれば私がもっと楽できるのにさ」 「残念。私は外交政治に興味ないの」 「じゃあ何に興味があるのよ」 「この授業の教授」 キザなしぐさで教室の前方をミキが指さした。 誰かがキューを出したかのようにチャイムが鳴り、颯爽と現れた教授がさっそく話始める。 「では始めましょうか。今日は参考書を使用しません」   チェック柄のシャツを着た50代くらいの男性の教授だ。 フレームが細い丸眼鏡が似合う。 細身で長身。 イケオジと学内で有名だ。 「彼がお目当てのお方?」 「そう。あのハスキーボイスがたまらないわ」 わざとらしくうっとりとした声で言う。 私は呆れて笑いながら、教授が教壇のうえで端末を起動し、プロジェクターの電源の位置を探そうとくるくると回りながらうろついているのを見た。 結局見つけることができず、一番前の男子学生に、「どうするか知ってる?」と聞く始末である。 確かにスラっとしていて、昔は本当にモテたんだろうなぁと思うが、どうもどんくさい感じがする。 「彼、だいぶ年上ですけど」 「この期に及んで年齢差なんて気にするの?彼、全くそうは見えないけど、遺伝子工学の有名な教授で、ミュータント専門の第一人者だよ。能力を抑えるための薬を開発してるチームに所属してるんじゃなったかな。最先端研究だよ」 「へぇ」 私がそっけないのが気に入らないのか、ミキが口を尖らせた。 「少しくらい興味持ってくれてもいいじゃない」 そんなことを言われても興味がないものはない。 それよりも、同年代の男子学生がミキにどれだけアタックしても全く響かない、というか気が付いていないのかもしれないと思うほど無関心なことの方が問題だ。 「遺伝子工学入門担当の丹波(たんば)です。一般教科ですので、人間科学部の方以外でも履修できます。遺伝子工学になじみがない方でもわかるように、今日はこの講義で扱う題材である人間遺伝子工学の歴史についてお話しします」 丹波は教室の明かりを消し、学生に聞いて見つけ出したリモコンでプロジェクターの電源を入れた。 画面に赤いマントのスーパーマンの画像が表示される。 映画を見た覚えはないから、おそらく学校の授業で写真を見たのだろう。 「皆さんは、スーパーマンをご存じですか?今ここにうつるのは、かつて人気だった映画のキャラクターたちです」 丹波がスイッチを押すたびに、スライドに次々と昔はやったらしい映画のキャラクターが映し出される。なぜかほとんどのキャラクターが全身タイツに覆面。中にはケープを付けているものまでいる。 これがかっこいいと思われていた時代があるのが私は信じられない。 マント?何に必要なのだろうか。
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