序章

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そういえば、さっき配っていたチラシにも同じスーパーマンのイラストが描かれていた。 いくつかは知っているが、そこまでミュータントに興味はない。 どれも見たことがない作品ばかりだった。 「かつて、超能力を持つ人間はおとぎ話の中だけのものでした。映画の中で活躍し、多くの人たちを助ける。小さな子どもたちだけではなく、大人の間でも大人気で、テーマパークではこのキャラクター達だけのエリアが作られるほど人気だったんです」   次に映し出されたのは、一人の西洋人の写真だった。 「こんなスーパーマンが実際にいたら、多くの人を救うことができるのではないか。そう考えたのが、アメリカの遺伝子工学者、マイケル・ジョンストンでした」   さすがにマイケル・ジョンストンは知っている。 人類史を大きく変えた科学者。 世界中どこでも、彼の名前を知らない人はいない。 「今から約100年前、彼は世界で初めて、遺伝子操作によるミュータントの研究に成功しました。クローン技術による生まれながらのミュータントだけではなく、一般人に薬剤によって特殊な能力を身に着けさせることに成功したのですが、このあと何が起きたかは、もうみなさんご存じでしょう」 知らないわけがない。 第二次世界大戦以降心配されていた第三次世界大戦が起きることはなかった。 世界はそれどころじゃなくなったからだ。 「彼らが当時の体制に反旗を翻し、人々を攻撃したのが、約30年前に起きたミュータント事変です」 世界中の都市を、ミュータントたちが攻撃したのだ。 ワシントン、ニューヨーク、モスクワ、北京。 そのほかにも一斉にミュータントたちによるテロ行為が発生し、霞が関も攻撃を受けた。 当時は、人間が滅亡するとパニックになったが、実際には7日間で鎮圧された。 どうやったのか、私たちは学校で習わない。 ただ、第二次世界大戦以降、人権というものが無視されたのがこの時だといわれている。 「事件以降、ミュータントは存在自体が罪だとされました。日本でも、ミュータント特別法が緊急承認され、一斉に摘発が行われた結果、ミュータントであるというだけで多くの人々が逮捕されました。第二次世界大戦後最悪の権力による弾圧だと私は思っています」 なんだか重たい話になってきた。 1時間目の中身のない教授の身の上話もなかなかつらいものがあったが、カラーで映し出される、世界中が破壊された様子を淡々と見せられるのもそれはそれで心にダメージを負いそうだった。 ちらっとミキを見ると、彼女はプロジェクターではなく丹波をまっすぐ見据えている。 そこまでですか、というほどぞっこんらしい。 確かに丹波の話し方は引き込まれる何かがあった。 まるで当事者であるかのように話をする。
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