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「ミュータントは英雄から一気にタブー視される存在となり、あれだけヒットしていた映画もすべて上映中止。テーマパークも全面閉鎖。一般人、ミュータント合わせて、第二次世界大戦当時の死者数に匹敵する6000万人の人々が亡くなったとされています。」
丹波がスライドに映し出したのは、燃え盛るホワイトハウス、警視庁、国会議事堂など、全世界の主要な機関がボロボロに破壊されている様子だった。
「私から言わせれば、そもそもミュータントを生み出したときに都合よく使おうと考えた当時の政治家たちが招いた自業自得の事件だと思いますが」
ずいぶんとミュータントの立場から話をする人だなと思う。
確かに差別や弾圧は許されないが、そもそも彼らが攻撃を仕掛けてきたのだ。
起きてしまったことに対して、一般人が都合よく許すわけがない。
いまやミュータントというと一時期のアルカイダより嫌悪感を示す人が多いらしいが、私は不思議には思わない。
そもそも周りにミュータントがいないので、大して共感も関心も抱いたことがない。
「一部資料では、当時のミュータント側が一般人を狙うなという指示を出したという記録もありますが、過激派たちの怒りをコントロールしきれず、結果的に暴徒化してしまいました」
丹波がスライドの電源を消して、教室の明かりをつけた。
「このような出来事を二度と繰り返さないようにしなければなりません。この授業では、いかにしてミュータントが生まれたのか、そしてなぜこのようなことになったのか、当時の資料を基にして考察していきたいと思います。遺伝子工学というよりも、ミュータント史ですかね」
根っからの文系である私は安堵のため息をついた。
遺伝子工学なんて、入門とはいえとてもついていけないかもしれない。
ミキに一緒に取ろうと誘われてからうっすらとそんな不安を抱いていたのだ。
歴史ならなんとかなるし、なんだかおもしろそうだ。
「さて、初日ですし、皆さんも長話にはうんざりしていると思いますので、今日はこれくらいにしましょう。ネットで使用する文献を公開していますので、各自で確認して読んでおいてください。外の署名運動の資料もよくできています。読んでみると面白いかもしれませんよ」
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