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それまで物騒な話をしていたとは思えないほどさわやかな笑みを残し、丹波は教室から出て行ってしまった。
ミキが私に顔を向けてニヤッと笑った。
「ね?丹波先生、イカすでしょ?」
「私は特にタイプじゃないけど」
「分かってないなぁ」
周囲の学生ががやがやとしゃべりながら片づけをして教室から出ていく。
私も、使わなかった筆箱をしまって講義室から出る準備をした。
「あの……、」
左側から急に話しかけられ、びくっと飛び上がる。
そこにいたのは男子学生。
「これ、あなたのですよね?」
白いTシャツに緑のブルゾンジャケット。
ダークブラウンのチノパンを履いた彼は、片手にスターバックスのアイスコーヒーを持っている。
彼は、ポカンとする私の目の前にくしゃくしゃになった紙を差し出した。
国際関係史のレジュメと私の時間割だ。
まさか、わざわざ拾って届けてくれたのだろうか。
「そうです、ありがとうございます」
パッと笑顔を見せた彼は何かを言おうとするが言葉が出てこなかったようで、いいえ、と言って立ち去ろうとしたが、それをミキが呼び止めた。
「あれ、どこかで一緒になりましたっけ?外英の2年ですか?」
「いや、僕は新聞学科の2年。」
彼は恥ずかしそうに頭の後ろを手でさすった。
天然パーマなのか、少しカールしているブルネット色の髪を更にくしゃくしゃにしている。
「新聞学科!すごい!」
オーバーに手を叩いて煽るミキ。
なんだ。何を始めたんだ。
「いや、そんなことは……」
「三月先生の授業とかとってる?水曜日の、3限!」
「取ってるよ。マスメディア論だよね?」
「おお!私たちも取ってるの。穂香も一緒だよ。ね?」
すると、彼の表情がぱっと輝く。
ミキ、気を使わせてるよ。
もう行こうよ。
恥ずかしいって。
全力で視線を送るが、ミキはすべて黙殺した。
「あの授業、グループで動いたりするらしいんだ。同じグループになるかもね」
「新聞学科の授業、友達いなくて怖かったんだ。座席、近くに座ってもいい?」
「いいよ。じゃ、連絡先、教えてくれる?前の授業が同じ講義室だから、座席取っておくよ」
「あー、私もう携帯しまっちゃったんだよね。穂香、連絡先聞いて私に回してよ」
「えっ?」
なんでそんなことを……。
しかし、彼はすでにLINEのQRコードを私に差し出している。
断るわけにもいかず、コードを読み取って彼にスタンプを一個送っておいた。
「あの、名前は……?」
「大塚。大塚真斗です。穂香さん、ですよね」
「そうです」
「じゃ、水曜日に連絡するね」
彼はにっこり笑って教室の後ろへと引き換えしていった。
私は隣に座っているミキをキッとにらみつける。
彼女は呑気にも大塚に手を振っていた。
「ちょっと、今の何!?」
「まぁまぁ、後々絶対私に感謝するから!」
ミキは私のiPhoneを勝手にとって、これも勝手に登録した顔認証でロックを開けて大学の時間割サイトにアクセスする。
「ちょっと、勝手に何してんの」
「はい、登録完了。水曜日の3限、楽しみだねぇ」
にやにやと笑うミキに、私はただため息をつくしかなかった。
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