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鼻歌交じりに歩くミキはもう完全に浮かれてしまっている。
ほぼスキップのように歩いていたミキが突然足を止め、私は彼女の背中にぶつかってしまった。
「何?急に止まんないでよ」
「あれ、丹波先生じゃない?」
ホテルの駐車場に向かって歩いていくその男性はジャケットを着ていたが、その下からかすかに見えるシャツは確かに昼間に丹波が講義で着ていたものだ。
急いでいるのか、足早に駐車場の中に消えていく。
「ディナーにいたのかもね」
「わかんない。秘密の密会かもよ」
ミキが目を輝かせる。
なんでこうゴシップ好きなんだろうか。
放っておくとまた騒ぎ始めてしまうので、私はミキの背中を押した。
「くだらない。どうでもいいです。ほら、飲みに行くんでしょ」
その時、駐車場から大きな物音がした。
何かが鉄にぶつかるような音、そしてうなり声。
不穏な物音に私の足が固まり、ゆっくりと振り返った瞬間、丹波の体が宙を舞っているのが目に入った。
「え、なに?」
地面に転がった丹波の身体に、体の大きな男が近づいていく。
パーカー、ジーンズ、髪は短髪。
手には黒い袋を持っている。
あたりにほかの人影はない。
丹波は呻きながら逃げようとするが、男に頭をつかまれて後ろから首に腕をかけられた。
「誰か……」
自分の心臓の音が頭に響く。
声が出ない私の横を、チーターのように駆けていったのはミキだった。
信じられないようなスピードで走っていき、丹波の首を締めあげている男の真横から盛大な飛び蹴りをかました。
何を考えているんだ。
なんて無謀な。
おかげで少し我に返った。
誰か助けを呼ばなければ。
手に持った携帯で助けを呼ぼうとダイヤルを出すが、とっさに番号が出てこない。
911だっけ。110番?
視界の隅で、小さな明かりが揺れるのが見えた。
「ちょっと!」
少し離れたところに懐中電灯を持った人影がある。
巡回の警備員だ。
私はその明かりの主に向かって大きく手を振った。
「助けて!」
私に気が付いた警備員が走ってやってくる。
私が走り出そうとしたのと、倒れた男がミキに手を伸ばすタイミングが重なった。
「ミキ!」
その瞬間、視界が真っ白になった。
まぶしくて目を覆い、地面に伏せる。
地響きがするような轟音。
一瞬、とんでもない熱を感じたが、すぐに去った。
何が起きたのだろうか。
何もわからないまま恐る恐る顔を上げると、大柄の男が力なく横たわっている。
駐車場の誘導等はなぜかショートして火花を散らしていた。
周囲の電気がすべて消えてしまっている。
ミキは丹波の背中で守られていた。
「ミキ!」
駆け寄ると、ミキはなぜか興奮していた。
丹波がミキの背中をさすり、落ち着かせようとする。
ミキにけがはないが、先生は頭から出血していた。
肩を揺らして荒く呼吸をし、大きく咳き込む。
顔面蒼白で、ミキの無事を確認するとその場でうずくまってしまった。
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