熱帯夜、君と出会う

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 空に昇った月が輝いている。月と、星以外が闇に包まれる夜。我々の時間。  今日は所謂熱帯夜で、じっとりとした空気が辺りを包んでいた。僅かな涼しさを届けてくれるだろうと願った風も、生温くて不快な感覚を増していくだけだった。  鳥か、虫か、何かがぎゃあぎゃあぐわあと鳴いているのを聞きながら、木立の中をのそのそ進む。  人っ子一人いない夜の山中。  ……の、はずだった。 「あ、あのぅ、すみません……。この辺りに住んでる人ですか?」 「え……?」  少し開けたところに出ると、下の方から声をかけられた。小柄な人間が不安そうにこちらを見上げている。  なぜこんな時間に、こんなところに子供がいるのか。  私が黙って見下ろしていると、子供はきょろきょろと辺りを見回してから口を開いた。 「この山には怖いおばけがいるんだって。みんなで肝試しをすることになったんだけど、ぼく、途中で迷って、帰り道が分からなくなって。今何時なのかも分からないし……。お兄さんはこの辺の人ですか? 道分かりますか?」 「迷子」 「麓まで案内してもらえませんか」 「構わないよ。付いておいで」
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