熱帯夜、君と出会う

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 見知らぬ人物に全く警戒もせずに、子供はぱあっと目を輝かせた。彼の目には私の姿は救世主のようにでも映っていたのかもしれない。  無視をしてこの子供が獣共に襲われては多少の罪悪感を覚えてしまうと思ったので、麓の村まで連れて行ってやることにした。  どんなおばけが出るのか、と道すがら子供に訊ねた。 「昔からこの山に住んでいて、人間を食べちゃうんだってさ。怖くて怖くて、みんな夜になったら山には入らないんだっておじいちゃんが言ってた。でも、肝試ししようって、みんなが。子供だけでこっそり。昼の間に準備して、道も確認して、これならすぐ戻れるねって。けど迷ってしまったんです」 「そうか」 「お兄さんに会えてよかったです。あれ? でも、お兄さんはどうしてこんな夜に山にいたんですか?」  長い時間暗闇にいて目が慣れても、月明かりだけでは人間の目には光が足りないだろう。私の姿も朧げにしか見えていないのかもしれない。不思議そうに私を見上げる子供の顔が、私にははっきりと見えていた。  進行方向に転がっていた倒木を片手で投げ飛ばし、道を空ける。 「今の音は何?」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加